ブーム後の「ケータイ小説」が今も読まれる必然 ガラケー時代から進化、ジャンルとして定着

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近年の野いちごでは、主人公の女子と男子が一緒に住むはめになるという「同居もの」も人気だが、現実にそんなことがあるかといえば、ほぼまったく起こりえないだろう。ただ、物語のパターンとしてはわかりやすく、盛り上がりも作りやすい。「暴走族 元姫」も同居もの同様に、使いやすかったがゆえに独自の発展を遂げた恋愛ものの中の1ジャンル、フォーマットの一種と言えるのかもしれない。

「妄想を作り上げている」という点では大人の側も変わらないように筆者には感じられることもある。

全国の小中高校で朝の10分、生徒が自由に選んで本を読むという「朝の読書」運動があるが、学校によっては「朝読では横書きの小説は禁止」としていたり、一部の学校図書館では司書の判断から「横書きの小説は入れない」という方針を取っているという。

過激な表現・描写はほとんどない

「おそらく中身を検閲して禁止しているのではなく、先生や司書の方には昔のケータイ小説のイメージがあって『過激なものを読んでほしくない』という善意から、そうされていると思うんです」(長井氏)

しかし、ここまで見てきたように、現在のケータイ小説は、ホラーだけはジャンルの性質上、一部激しい表現があるものの、それ以外の恋愛ものなどは健全な作品がほとんどだ。「横書き禁止」とまでいくと過剰な自主規制だろう。

若年層は現実には存在しない「暴走族」のイメージを膨らませ、教師や司書など大人の側はやはり現実にはもう存在しない「過激なケータイ小説」のイメージを膨らませている――それが昨今のケータイ小説をめぐる状況だと筆者は考えるが、個人的には後者のほうが問題ではないかと思う。

今の10代を理解したければ、偏見を捨てて実際に手に取り、時代の変化に目を向けることからしか始まらないのではないか。

(後編に続く)

飯田 一史 ライター

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いいだ いちし / Ichishi Iida

1982年青森県むつ市生まれ。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。小説誌、カルチャー誌、ライトノベルの編集者を経てライターとして独立。マンガ家や経営者、出版関係者のインタビューも多数手がける。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)、『読者ハ読ムナ(笑)』(共著、小学館)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)。

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