ブーム後の「ケータイ小説」が今も読まれる必然 ガラケー時代から進化、ジャンルとして定着
大人から見て違和感があるとすれば「暴走族 元姫」だろう。「暴走族 元姫」なる単語だけを見て「なんだ、やっぱりケータイ小説ではヤンキーが出てくる過激な作品が人気なんじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、それは違う。
ケータイ小説には、小説投稿サイト「魔法のiらんど」で連載され、2000年代後半から爆発的な人気を博したユウ『ワイルドビースト』などが作り出した様式美(お約束の設定)が連綿と続いている。
「暴走族には集団を率いる『総長』とその下に『幹部』がおり、さらには総長が見初めた『姫』と呼ばれる女性が1人だけいる」(「元姫」はかつて姫だった存在で「現姫」と対比される)、「倉庫にたむろする」といったものだ。
「暴走しない」暴走族も登場
しかしそうした様式美を維持しつつも、近年の作品では、中身が10年前とはだいぶ変わっている。そもそも「暴走族」が登場するのに、バイクやクルマで暴走するシーンがほとんどない。暴走族同士の血で血を洗う抗争で死傷者が続出、といったハードな展開もほぼまったくないのである。
「バイクに乗ってすらいない人気作品もあります。作品に出てくる暴走族の男の子たちはちゃんと学校にも行っていて、悪いことをしているわけではないんです。無免許運転だとか未成年の飲酒、喫煙、シンナー、ドラッグ使用といった、法を犯すような描写はほぼありません」(ウェブサイトグループ編集長・森川菜々氏)
「“ヤンキー”ではなくて“暴走族の総長”なんですよね。暴走族は、今の子たちにとってはリアルな存在ではなくて空想でつくりあげる非日常の存在になっている。倉庫にたまって、幹部がいて……というのは、女の子1人の周りにイケメンがたくさんいるという、生徒会ものの少女マンガにあるような“逆ハーレム”のイメージに近いと思います。
また、家庭にも学校にも居場所のない女の子が、仲間を見つけて生きる希望を取り戻す、というテーマで描かれることも少なくなく、読者は人とのつながりや絆を無意識に求めているのかもしれません。」(第1編集グループ 野いちご書籍編集長・長井泉氏)
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