減反廃止は名ばかり、迷走を続けるコメ農政 転作補助金を残したまま強いコメ農業は作れない
「農業を成長産業にするために、減反の廃止を決定した」──。
12月10日の会見で安倍晋三首相は自信満々にこう語っていた。しかし、「減反廃止」とは名ばかりのものだ。
政府は今回、国が主食米の生産目標を農家ごとに割り当て、生産数量を抑制することによって価格を維持する減反政策について、5年後の廃止を決定した。併せて、民主党政権が2010年度から始めた戸別所得補償制度による補助金を14年度から半分に減らし、18年度に廃止する。
減反面積を順守したコメ農家に補助金が支払われる所得補償制度は、減反の大きなインセンティブになってきた。それをやめて、生産調整の割り当てもなくすとしたため、多くのメディアが「減反廃止」「50年ぶりの農政大転換」と騒ぎ立てた。
だが、今回の“大転換”にはカラクリがある。
ポイントは、主食米の代わりに麦、大豆などを作った場合、生産量に応じて支払われる転作補助金が維持されることだ。おまけに、飼料用米や製菓・製パンに使われる米粉用米など、非主食米に転作した際に支払われる補助金は増額される(表)。
補助金の拡大でコメ農家の転作が進めば、主食米の生産量は減る。農林水産省出身で農業政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、「今回の措置は、減反廃止どころか減反強化そのものだ」と批判する。
補助金をなくして、本当に減反を廃止すれば、コメ農家は生産量を増やして収入の拡大を図る。供給量の拡大でコメ価格が下落し、コストの高い小規模農家は撤退を余儀なくされ、結果的に、大規模農家へ農地が集約されるだろう。だが、現実はそうした構図になりそうもない。