自宅で自習をさせるにしても、やっかいなことがある。通常、書店に行けば大抵の学校の過去問が出回っているのだが、帰国子女枠の過去問は販売していない場合もある。筆者も近くの書店で見てみたが、赤い表紙の過去問に帰国生向けの文字は見られなかった。
学校によっては、学校窓口に問い合わせて購入しなければ入手できないところもある。受験直前まで海外滞在中という家族は、さらにハードルが高くなる。
帰国子女枠でも容赦なし、途中入塾のつらさ
本来なら、学校選びは校風や先生の様子なども見たうえで決めるべきところだが、首都圏のように多くの学校が存在する場合、とくに伊藤家のように学校選びに時間のかけられない家庭の場合、絞り込み基準として偏差値を置くのもやむをえない。
塾は偏差値の高い学校を勧めてくる傾向が強く、保護者も流されがちだが、偏差値の高い学校となればなるほど、帰国子女枠といえども問題の難易度は容赦なく高い。いくつかの図形を組み合わせて交わる点の角度を求める問題など、公立小学校では習わない難問が、一般の受験生同様に課される。
祐樹くんはこの状況に、初めからつまずいた。5年生も冬ともなれば、塾では小6までの学習範囲を終えようという頃。小学校ではまだ習っていない円錐の体積を求める問題や、つるかめ算を使って解く問題が、塾のテストでは普通に出て、面食らったという。
遅くに入塾した祐樹くんのために、塾がその単元や公式を改めて授業で教えることはなく、すでに習ったものとして授業は進んでいく。祐樹くんは苦戦した。
何度トライしてもつるかめ算がうまく飲み込めない。母親の恵美さんは一生懸命に励まし、問題を一緒に解くなど伴走を続けていたが、ある日、「もうできない!」と祐樹くんは泣きだしてしまった。
こんな状態になるのなら、受験なんてしなくてもいい――。一度は母親の恵美さんも心が折れた。「つらいなら、やめてもいいんだよ」と恵美さんは言ったという。しかし、祐樹くんは「いや、やる」と一言。
奮起させようと言ったのではなく、心からやめていいと思っているのだと伝えても、息子は涙を拭い、机に向かうことをやめなかった。
「もしかしたら本人は、英語が飛び交うところに帰りたい、つまり英語を話す子たちがいる学校に行きたい、という気持ちがあったのかもしれません」。恵美さんは当時のことをこう振り返る。
ひたすら問題をこなす日々を過ごしていった祐樹くん。最初こそ苦戦したが、辛くも次第に光が見えてきた。6年生の夏ごろには、なんとか志望校に手が届く偏差値に到達し、成績が落ち着きだしたのだ。
両親によるサポートも本格化した。勉強のスケジュール管理など普段の細かいケアは母親が担当し、学園祭などの学校見学には父親が積極的に連れて行くなど、夫婦で役割分担しながらフォローした。そして最終的な志望校選びでは、父親の勇さんの意見が大いに役立った。
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