金融庁は仮想通貨規制をどこまで強化するのか 「ICO」での資金調達も金商法の対象になる?

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現状、ICOはホワイトペーパーのみ作成すれば、トークンに資産の裏付けがなくても発行することができる。実は、ここに最大の問題があると私は見ている。どう解決するか。ブロックチェーン技術を応用した新たな資金調達手段として「STO」(セキュリティ・トークン・オファリング)が活用される可能性があると考える。ICOからSTOへの転換だ。これはすでにアメリカで潮流になりつつある。

STOは、その名に「セキュリティ」が含まれるように「証券」に分類される。株などの有価証券を裏付けとして発行されるトークンのことで、利益分配や議決権等を投資家に配当する仕組みをすべてトークンに置き換えたものである。

証券に該当するため、既存の金融商品関連の法律に沿った格好となることから、投資勧誘と販売にあたっては監督官庁の管理のもと行われることとなる。2018年8月、AnyPay株式会社のグループ会社であるAnyPay Pte.Ltd.(本社:シンガポール)が、収益分散型トークン発行システムをリリースすると発表した。しかし、国内ではSTOに関する確定した規制枠組みが存在せず、STOによる資金調達が行われた事実も観測されていない(2019年1月28日時点)。

STO市場のメインプレーヤーになるのは誰か?

アメリカでは2018年以降、SECなどによって有価証券であると指摘を受けたICOがSTOの枠組みに沿った格好で修正している例も多数報告されている。STOは、アメリカ市場で知名度が徐々に増している。

ただし、STOはICOに比しても参入障壁が高い。ICOのように、資本力に乏しいベンチャーなどがメインプレーヤーになるとは考えにくい。金融商品関連の法律に通じ、一定のコンプライアンスを備え、かつ有価証券に慣れている既存の金融業界、つまり証券関連のプロフェッショナルである証券業界がメインプレーヤーになる可能性もある。既存ビジネスで閉塞感が強まり、株価も冴えない証券業界(特に国内)において、今後、STOに絡む動きが活発化するか注目したい。

もっとも、日本円との連動を想定して開発を進めているメガバンクのステーブルコインの先にSTOがあるとすれば、注目すべき業界は証券業界だけではなくなってくる。変動率(ボラティリティー)が抑えられたステーブルコインをベースにSTOを展開するというシナリオは、調達資金がブレるリスクを抑えられるからだ。今後、メガバンクの動向も注視すべきだろう。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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