金融庁は仮想通貨規制をどこまで強化するのか 「ICO」での資金調達も金商法の対象になる?

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2018年11月12日の「第9回仮想通貨交換業等に関する研究会」では、従来の証券市場では不公正取引と見なされるような仮想通貨取引や、ICOに絡んだ詐欺事案なども報告された。現行の資金決済法の枠組みでは対応できない点を考慮すれば、「金融商品取引法(金商法)での規制が必要」としている。

それに続く11月26日の第10回研究会では、「ずさんな事業計画と詐欺的な事案が多く、既存の規制では利用者保護が不十分」「他の利害関係者(株主、債権者等)の権利との関係も含め、トークンの権利内容に曖昧な点が多い」などと、さらなる問題点が指摘された。「投資性を有するICOの特質と、それに伴い必要と考えられる規制の内容を整理する必要がある」と突っ込んだ。

そして第11回研究会の後、12月21日に同研究会はA4・33ページから成る報告書をまとめた。仮想通貨交換業者に対し、顧客の仮想通貨相当額以上の純資産額および弁済原資を保持することを義務付ける、財務書類の開示も義務付ける、などとした。さらに「ICOへの対応」については10ページ以上を割き、下記のような規制に向けたポイントを挙げている。

ICOへの対応(仮想通貨交換業等に関する研究会の報告書概要から)
◆投資性を有するICOへの対応
 ●仮想通貨による出資を募る行為が規制対象となることを明確化
 ●ICOトークンの流通性の高さや投資家のリスク等を踏まえて、以下のような仕組みを整備
  ・50名以上に勧誘する場合、発行者に公衆縦覧型の発行・継続開示を義務付け
  ・仲介業者を証券会社と同様の業規制の対象とし、発行者の事業・財務状況の審査を義務付け
  ・有価証券と同様の不公正取引規制を適用(インサイダー取引規制は、今後の事例の蓄積等を踏まえて検討)
  ・非上場株式と同様に一般投資家への勧誘を制限
◆その他のICOへの対応
 ●ICOトークンを取り扱う仮想通貨交換業者に、事業の実現可能性等に関する情報提供を義務付け

ICOをめぐっては中国や韓国が禁止するなど、規制から踏み込んで一律禁止する動きもある。ひるがえって日本(研究会の報告書概要)は、ICOの有用性に配慮し、リスクに応じた投資家保護の規制を施して存続は認める、という方針に見える。

ICOのうち投資性を有すると認められるものに関しては、法定通貨のみならず仮想通貨で購入可能なものについても、金商法の規制の枠組みに当てはめる方針と見られる。報告書では、「情報提供(開示)の仕組み」「第三者による事業・財務状況のスクリーニングの仕組み」「公正な取引を実現するための仕組み」「トークンの流通の範囲に差を設ける仕組み」の4点が規制対象として挙げられている。

それぞれの内容を確認すると、「情報提供(開示)の仕組み」については第一項有価証券と同レベルの開示が必要とされており、「第三者による事業・財務状況のスクリーニングの仕組み」については第一種金融商品取引業者と同レベルの義務負担が生じるとある。一方、「公正な取引を実現するための仕組み」では原則的に有価証券に対する規制と同様としているが、インサイダー規制については要検討とされ、詳細の詰めはこれからといったところだ。

アメリカではICOから「STO」への流れに

このようにICOに対しては金商法上の規制の中でも高度なものが課される可能性が高い。アメリカでは2018年3月、アメリカ証券取引委員会(SEC)がほぼすべてのICOトークンは有価証券であるとの見解を表明している。既存のICOも規制する方針だ。アメリカと同様に、日本ではICOのうち投資性を有すると認められるものは「プロ向け」の商品となり、参加者が限られる一方、ライセンス取得の困難さを踏まえると参入障壁は高いものとなるだろう。

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