(第1話)舞妓さん育成の秘密

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舞妓さんの正月の衣装。黒紋付の正装で、1年の始まりの決意を固める。
 さらに舞妓さんたち自身が個人としての技能を磨き、お座敷でチームプレーを阿吽の呼吸でこなす力をきちんと伸ばすために、育成の過程でたくさんの人からさまざまな言葉をかけ続けられています。京都花街の人たちは、単に柔らかい言葉だから京ことばを使うのではなく、その洗練された穏やかな表現のうちにある多様なニュアンスを汲み取り、自分のものとして自在に使うことで、厳しい美的価値判断を沁み込ませているように私には思えました。だから、京都以外の出身者が多くを占めるようになっても、舞妓さんたちは京ことばを身につけなければならないのでしょう。京ことばは若い芸舞妓さんたちにとっても、精神の支柱になっているように感じられました。

 考えてみればこの20年以上、若い人たちは、やる気がない、粘りがない、我慢ができないなどと、よくネガティブな表現を用いて形容されています。今の若者を育てるのは難しい、すぐに辞めてしまう、壁があると乗り越えられないなど、育成の現場の人から嘆く声を聞くことも多いです。

 でも、若者が変わったのでしょうか?いつの時代も若者は、未経験で、自信がないけれど自分を認めて欲しいと願っていたはずです。そのために、先達と呼ばれる人からのちょっとしたアドバイスや、励ましの一言が、きっとあったはずなのです。

 舞妓さんたちは、自分で納得し考えて芸事に取り組まないと、修業の途中で壁を越えられず、厳しさに音を上げてしまうそうです。周囲の人のアドバイスに耳を傾け、そして若いから未熟からだからと言い訳をせずに、自分のできることを必死に努力する。身についた成果を発表し、その反省点をたくさんの人から示唆され、落ち込みながらも明日を信じてまたやってみようと思う。その繰り返しで、舞妓さんたちは自分を磨いています。

 花街のやわらかな京ことばは、折れることなく自分を勇気づけ、一方で舞い上がることなく冷静に自分を見つめ、さらに自分の周りにも配慮しよい関係性をつくることにつながります。これらの言葉を少しずつ知っていいただくことで、舞妓さんたちと同じような、自分の「芯」をもっていただくことができれば、筆者としてこれにまさる喜びはありません。

 それでは、「舞妓はんの言葉」を、1つずつご紹介していきたいと思います。
おこぼ。舞妓さんだけが履く、高さ10センチほどの桐製のぞうり。
慣れるまでは非常に歩きづらく、新人のうちは転ぶことも多いという。

西尾久美子(にしお・くみこ)
京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。同年4月より神戸大学大学院経営学研究科助手、同年10月より神戸大学大学院経営学研究科COE研究員、2008年4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)がある。
西尾 久美子 京都女子大学現代社会学部准教授

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にしお くみこ / Kumiko Nishio


京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期修了、博士(経営学)。神戸大学大学院経営学研究科助手、神戸大学大学院経営学研究科COE研究員を経て、2008年 4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)、『舞妓の言葉』(東洋経済新報社、2012年)などがある。

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