作家・酒井順子が語る、読書と旅が似ている理由 読書は過去にも旅にも連れて行ってくれる
──古典文学以外はどんな本を読んできましたか?
三島由紀夫はあの流麗な比喩表現に惹かれました。あとは泉鏡花など、好きな作家は美文調の人が多い気がします。今のマイブームは内田百閒ですね。
私は鉄道好きで、内田百閒の「阿房列車」シリーズも好きなのですが、ここにきて文章がものすごく上手いこと、昔の人には私たちにはない教養があることに今さらながらに感心します。
今はもう消えかけている漢語的表現を使っていたり、ドイツ語の教授なので外国語にも詳しい。しかもそれを前に押し出すのではなく、一般の人も読みやすいようユーモアに包んで書いている。だからこそ随筆ブームを巻き起こせた人なんだなと。
私が鉄道好きになったのは、中学生の頃に父が宮脇俊三と内田百閒の本を買ってきて、それを読んだからなんですが、再読したときにその頃には気づかなかったことがたくさんありました。人生経験を積んだがゆえにぐっとくる部分が違ってきたり、読み方自体が変わったり。年齢を重ねると再読の楽しみもあるような気がします。
近代歴史の奥深さ
──今、どんなジャンルの本に興味がありますか?
40代くらいまでは平安や中世が好きだったのですが、今は近現代史です。
昨年『百年の女──『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』という『婦人公論』の100年の歴史を振り返る本を出すにあたって、100年分の『婦人公論』を読むことによって近現代史の魅力に目覚めました。
二・二六事件や二度の世界大戦がなぜ起こったのかとか。あとは学生運動のこと。1968年に始まった全共闘運動は、そんなものすごいことが自分の生きている間に起こっていたのに、まだ2歳だったので全く記憶にない。
私には国内がチャラチャラしていた80年代の平穏な時代の記憶しかないので、その前のもっと日本に陰影があった時代のことが知りたい。やはり歴史というものは連綿とつながっているので、なぜ日本の今がこうなっているのかを知るために、少し前のことを学びたいですね。
──あらためて、読書の面白さはどのようなところにあると考えていますか?
読書は旅と似ています。たとえ行動力がなくても、過去にも外国にも連れて行ってくれる。兼高かおるさんが「旅の楽しさは以前に行ったことがある場所にもう一度行くこと」とおっしゃっていました。
読書もまた、別の場所、別の時間に連れて行ってもらうという意味では旅と似ていて、それも一度ではなく何度も読むという楽しみもまた大きいもの。これは若い人にはできないことだと思います。もちろんつまらない本もありますが、当たったときの嬉しさは格別。読みたい本があるときの幸福感は、ちょっと他には代えがたいですね。
(TEXT BY Akane Watanuki
PHOTO BY Kikuko Usuyama)
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