ジャカルタ地下鉄、今月開業へ「見切り発車」? 走りは順調だが駅へのアクセス道路は未完成

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もう1つ、鉄道マニア的視点から言わせてもらうと、走行音はMRTJ車両が当地に搬入されたのと同時期にジャカルタの通勤鉄道(KCI)に譲渡された、JR東日本の武蔵野線用車両205系5000番台と非常に似ている。

終点のルバックブルス駅に到着し、いったん車庫に引き上げるMRTJ車両(筆者撮影)

これは両者とも東洋電機製造製VVVFインバーター制御装置を搭載していることに起因するが、同時にCBTC(無線式列車制御システム)装置などの一部機器を除いて、MRTJ車両は2000年代初頭のテクノロジーで製造されていることがわかる。このあたり、国内同業同士でコストカットを強いられる競争入札制の弊害でもある。

ホーム上の発車案内。すでに実際のダイヤに則って試運転が実施されている(筆者撮影)

列車はダイヤどおり、終点ルバックブルス駅にちょうど30分で到着。この日は、夕方のスコールもなく、各駅でのホームドア連動も順調で、非常にスムーズな走りであった。3月12日から開始するという一般試乗会では、各列車の乗車人数の増加、途中駅での乗降の実施など、より営業運転に近づけたものとなり、これからが正念場だ。

「3月開業」の政治的事情

MRTJ社は一般向け試乗会を3月24日まで実施し、なんとしてでも3月末までの開業を目指す構えだが、スケジュール的には一刻の猶予もない。夜通しで最終調整に奔走されてきた現場関係者には頭が下がる思いだ。おそらく3月末までに、どんな形であれ、客を乗せた列車は走り出すだろう。

用地取得が難航していたハジナウィ駅。ようやく出入り口が姿を現したが、補助道路の用地がまだない(筆者撮影)

しかし、用地取得に時間を要した路線の南側半分、高架で建設される近郊区間の一部駅では、駅舎へのアクセス経路に未完成の部分もある。とくに近郊駅のキモでもある、オンライン配車サービスの待機スペースの完成は、一部の駅を除いて開業後となる見込みだ。

このような土壇場での開業に至ったのは、単に作業工程の遅延だけが原因ではない。というのも、2019年3月の開業目標は、後付けされたものにすぎないからだ。

インドネシアは来る4月に大統領選を迎える。現政権にとって、MRTJの開業は交通インフラ分野での大きな成果となるわけで、この開業時期は絶対に死守しなければならないのである。日本側としても、政府間協力という建前上、無理を承知である程度これに追随せねばならない事情がある。

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