「種の絶滅もたらす人類の無知と無関心」 コロンビア大学地球研究所所長 ジェフリー・サックス

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人類は種としての自制心を保てるのか。現在はその瀬戸際にある。

 自然から獲得できるものはすべて手に入れたいという、強い欲求を持つのは人間の性である。この欲求が他の生物の生存に欠かせないものまで、根こそぎ奪い取っている。人間は世界中で漁業や狩猟や農業を行っているが、それによって他の生物が絶滅の危機に瀕しているのだ。

 1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットで、各国政府は地球温暖化問題に取り組む約束をするとともに、種の絶滅の阻止も誓った。

 サミットで合意された「生物多様性保全条約」には、「生物の多様性は人類にとって共通の問題である」と書かれている。条約に署名した国は、生物の多様性を維持し、森林などの生物学的資源を持続的な形で利用することに合意した。2002年にはさらに一歩前進し、10年までに「現在の生物多様性の損失率を大幅に引き下げる」ことを合意した。

 だが残念なことに、この条約は一般に知られることもなく、また支持されることもなく、実行されることもないまま放置されている。

 この条約を無視することは人類にとって悲劇である。わずかな資金を投入するだけで自然を守り、すべての生命の生活基盤を守ることができるのに、それができない。私たちは、人類の生存のためでなく、単に無知かつ怠慢であるがゆえに、他の種を絶滅に追いやっているのである。

 たとえばスペインやポルトガル、オーストラリア、ニュージーランドといった国は、“底引き網漁”を行っているが、これによっていくつかの海洋種を根絶やしにしてしまう可能性がある。深海にすむ食用魚のオレンジ・ラッフィーは底引き網漁によって、わずか25年で絶滅寸前まで追い込まれてしまった。

 牧場地や農地を開拓するために、世界の至る所で熱帯雨林が破壊されている。その結果、生物の住む場所が大量に失われ、多くの種が絶滅に瀕している。

 熱帯雨林を伐採すると土壌は滋養を失い、作物や家畜用の牧草が育たなくなってしまう。その結果、新しく開拓された牧草地や農地はすぐに放棄される。熱帯雨林の生態系の回復は、見通しさえ立たない状況になっている。

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