【林文子氏・講演】本当に心が満たされる仕事のやりがいとは何か(その3)

東洋経済新報社主催フォーラム「Employee Engagement Forum 2008」より
講師:林文子
2008年10月2日 ダイヤモンドホール(東京)

その2より続き)

●感性に訴えかける営業活動

 その後、ショールーム勤務を任されることになりました。するとお客さんが自分でお出でになって、「見積もり書いてください」なんて言われます。飛び込み営業をしていた私ですから、こんなことがあるのだと非常に感激しました。そんな感謝の気持ちがありましたから「おもてなし」の仕方が全く違ったのです。先輩の男性たちは、暑いと水屋のあたりで煙草を吸ったりお茶を飲んだりして待っている。お客さんが入ってきても遠巻きにしていて、お客さんから声がかかると順番で出ていくような感じでした。私は最初から「林君、今度君の番だよ」と言われると、表で待っていました。そして車が入ってきて運転席のウィンドウが開きます。すると「こんにちは。いらっしゃいませ」と大きい声で叫んで、「お客様、どうぞここで車を降りてください。私が駐車場にお入れします」と申し上げます。「こんな狭いショールームで、そこに目の前に線が引いてあるじゃない。自分で入れるよ」と言われても、大げさに「降りてください。私がやります」と。そして「まず冷たいものからお出しいたします」とお茶を飲んでいただいて、「貴重なお時間に、このショールームにお出でいただいたこと、本当に感激です」と会話をしながら、おもてなしをしました。

 お客様は、そんなに詳しく性能のことを話してもらわなくてもいいのです。よっぽど車のお好きな方は別ですが、最初に車を見たいなと思う動機付けは、テレビか何かで見て「お、なかなかスタイルいいね。格好いいね」と思われて見に行くという方が大半です。ですから、その車の性能をとうとうと説明するよりも、この車を持つとお客様の生活、ライフスタイルがどういう風に変化をして楽しくなるか。こういうことをお話すると、非常にお客様の気持ちが華やぐというか、浮き浮きしてくるわけです。
 だから決して私は「この車のここが素晴らしいです」とは言いませんでした。というのは、性能では各メーカーにそれほどの差はないと考えたからです。後はお客さんのお好みです。輸入車などは特にそういう位置づけです。ですから私は、自分の感動を伝えたわけです。「私がこれに乗ってみたら、こういうことを感じましたがいかがでしょうか」とご意見を求めました。感性に訴えるようなやり方なのですが、これがお客さんには喜ばれました。

 そんな営業活動をして、おかげ様でトップセールスになった後、BMWに転職をしました。実はそのちょうど半年前ぐらいに、過労で入院してしまったのです。人間というのは、死ぬほど働く時期があるのです。1日16時間とか18時間など働いてしまうわけです。その原動力は、今まで男性と同じ仕事はできないと思い込んで転職を繰り返してきて、仕事をやらせてもらえないという鬱憤と言いますか、もうマグマのように燃えていたものが「さあ、どうぞやってくれ」と言われたことで爆発してしまったのです。そうやって大病をしてしまいまして、ずっとこの会社にいるとこういう状態が続くということで転職をしてBMWに入りました。ここでもやはりエモーショナルなセールスを展開して、トップになりました。
その4に続く、全8回)
林文子(はやし・ふみこ)
現・東京日産自動車販売会社・代表取締役社長。
東洋レーヨン、HONDAの営業経験などを経て、BMW東京株式会社の新宿支店長、中央支店長に就任。その後フォルクスワーゲン東京代表取締役社長、BMW東京の代表取締役社長、ダイエー会長のキャリアを経て現職に至る。
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