日本企業の対外直接投資の流れは止まらない 構造的に円の売り切りが増えている理由
まず①のうち「高い法人実効税率」については、安倍晋三政権下で引き下げがかなった。ただ、国際的に高くなくなっただけで、特に低いわけでもない。「高い電気料金」はどうか。家庭用もそうなのだが、産業用電力料金については日本は主要国の中でまだ高い部類に入る。法人税と電気料金をめぐる状況は5年前から悪化はしていないが日本企業に海外投資を躊躇させるほどの話にはなっていない。
「6重苦」のうち解消したのは為替と環境規制だけ
一方、「進まない自由貿易協定」をめぐる状況は大幅な進展もありつつ、時代の潮流を見れば看過できず、というのがフェアな評価であろう。
協定の締結・発効という基準で見れば、この2011年と2019年現在では状況はかなり進展した。まず、昨年12月30日、日本を含めた11カ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が発効しており、世界のGDP(国内総生産)の約13%を占め、総人口で約5億人を抱える巨大な自由貿易圏がアジア太平洋地域に誕生した。これに続き今年2月1日には日本とEU(欧州連合)の間で経済連携協定(EPA)が発効している。日欧EPAは世界GDPの約3分の1、総人口では約6.35億人を対象とする世界最大規模の通商協定である。
TPPと日欧EPAの両協定によって日本は(自国人口を含めて)約10億人の自由貿易市場に参入した状況にあり、2011年時点の価値観に照らせば、自由貿易協定が「苦」と言えるような状況から脱却したことは間違いない。
しかし、である。2011年時点の価値観と現時点のそれとでは大分変化がある。②の問題につながるが、現在の世界では自由貿易陣営がこの上ない危機的な状況に立たされている。2016年に起きた英国のEU離脱方針決定とアメリカのトランプ大統領誕生という2つの事件を経て「自由貿易は正義なのか」という議論がにわかに幅を利かせるようになった。対米貿易交渉の状況次第では、さらにFDIに積極的になる日本企業が出てきても不思議ではない。
「硬直的な雇用法制」については、「働き方改革」の掛け声は盛んでも、金銭解雇を可能にする雇用規制の緩和という本源的な議論にまでは、安倍政権が踏み込めない状態だ。一方、「厳格な環境規制」については2020年までの温室効果ガス削減目標に関し、民主党政権時代の「1990年比マイナス25%」から「2005年比マイナス3.8%」に大幅後退させた。
つまり、日本企業にとって、6重苦のうち為替と環境規制だけは5年前対比で明確に改善したといえそうだが、全体感として日本回帰を検討するほどの状況になったとは思えない。
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