「国際金融政策の進化を阻む3つの“停滞”」 ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

世界の財務大臣が今、議論すべきこと

 最後に、国際的な金融秩序の安定を責務とするIMFが、より指導力を発揮しなければならない。IMFは、金融のグローバリゼーションに対する協調的な枠組みを追求する、唯一の政治的かつ知的なプレーヤーなのである。 

 ただ残念なことに、IMFは組織内部のガバナンスに問題を抱え、マヒ状態に陥っている。IMFの最大の問題は、各国経済の影響力の変化に伴い、投票権を調整する妥当なシステムを持っていないことであり、とりわけ、アジア諸国の投票権のウエートを大幅に引き上げることが喫緊の課題となっている。

 では各国の財務大臣たちは、ワシントンに集まって何を話し合うべきだったのか?

 まず世界的な貿易不均衡に取り組むための政策について議論すべきだった。具体的には、「米国の財政規律を高めること」「欧州諸国とアジア諸国が内需依存の経済成長を実現すること」「アジア諸国が為替市場の弾力性をより高めること」などについて議論を交わすべきだった。

 さらには、そうした議論を一歩前に進め、発展途上国が金融自由化のスピードをより速めるよう、積極的に働きかけるべきだった。多くの研究で指摘されているように、発展途上国は貿易自由化を通じて、国際金融市場に対しより門戸を開くべきである。そして、安定的なマクロ経済政策を実施する一方で、固定為替相場の採用は避けるべきである。

 実際、多くの発展途上国は、正しい方向に向かって着実に進んでいる。途上国は、90年代のアジア金融危機の最中に、「資本市場の自由化」を要求したIMFに対し、不快感を抱き続けてきた。しかし、今こそ「資本市場の自由化」を再検討すべき時である。新興市場の金融システムの脆弱性が、均衡ある発展を妨げ、国際貿易の不均衡の大きな要因となっているのだから。

 90年代の深刻な金融危機以降、「資本市場の自由化をさらに推し進めるべきかどうか」が大きな論争となったが、その考え方の核心は当時も正しかったし、現在も正しい。優れた資本配分のメカニズムを確立しなければ、21世紀の世界の経済成長は早晩、鈍化することになるだろう。各国の金融当局は、現実からいつまでも逃げ隠れすることはできないことを、肝に銘じるべきだ。

(C)Project Syndicate

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001年~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。

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