「国際金融政策の進化を阻む3つの“停滞”」 ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
今年4月、ワシントンに先進国の財務大臣と中央銀行総裁が集い、IMF(国際通貨基金)の理事会が催された。しかし、その席で「米国の貿易赤字拡大」「新興市場の金融機能不全」といった深刻な問題に関する対策について、何らかの合意がなされることはなかった。
金融のグローバリゼーションが急速に進行しているにもかかわらず、新しい時代に即した国際金融政策に関する議論は、停滞してしまっているのだ。
現在の停滞には三つの層がある。
一つ目は、自国の経済政策運営に悪影響を及ぼしかねない計画を立案することに、先進国が躊躇していることである。
その典型は米国だ。ポールソン財務長官を筆頭に、米財務省の首脳部は「いかに米国経済が完全無欠か」「なぜ各国は米国を見習うべきなのか」を説いて回るのが好きだ。彼らは、米国の住宅市場が落ち込み、もう「完全無欠」とはいえなくなっていることにはお構いなしである。海外から9000億ドルもの資金を借りなければならないという、現在の状況を直視すれば、米国経済が盤石とはとてもいえない。
一方、グローバリゼーションに対する欧州の不協和音を一言で表現するのは難しい。フランスはグローバリゼーションをあたかも侵略軍のように受け止め、愛憎相半ばする気持を抱いているのに対し、英国はまったく逆の反応を示している。ただ、いくつかの論点で意見の相違があるものの、「自国の経済が米国経済より非効率であるとしても、自分たちの社会の生活スタイルが最善である」という点では、欧州各国の意見は一致している。そのため、欧州の財務大臣たちは、金融のグローバリゼーションに関するリスクに対処するために、自国の政策を変更する必要性を認めたがらないのである。
そして、もう一つの大国である日本は、いつもながらひたすらに沈黙を守っている。日本は、保護主義的な通商政策と財政政策が批判されないことを願っているだけである。
二つ目に、発展途上国も間違いを犯している。彼らは1990年代に起きた金融危機の原因が、「外部から金融市場開放の圧力をかけられたことにある」と今でも信じている。
だが、その認識は正しくない。実際には国内金融システムが時代遅れで、投資への効率的な資金配分ができなかったために、資金が発展途上国から米国に流出したのである。もし各国政府がドルに対する為替ペッグ政策を採用せずに、為替相場をもっと自由に変動させていたならば、ほとんどの金融危機は回避、もしくは大幅に緩和できたはずだ。しかし彼らは、非効率で独占的な国内の金融システムを守るための口実として、金融のグローバリゼーションを悪役に仕立てあげてきた。