ヤマト運輸が「信書」問題で方針大転換  フジテレビバラエティでの”違法行為”も論点に

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 ヤマト運輸は今年に入ってからも、4月に政府の規制改革会議で信書定義の撤廃や、次善の策としての定義の明確化などを訴えている。

施行後に10年たっても目玉の「一般信書便」に誰も参入しない信書便事業をどう活性化すべきか。規制改革会議での議論の結果、総務省は信書便事業のあり方を再検討することになった。2014年3月中に結論を出すこととなっている。

そのために総務大臣の諮問機関である情報通信審議会の郵政政策部会で議論が進められているが、12月12日に開かれた会議でヒアリングに呼ばれたヤマト運輸は、「外形基準」の導入によって、郵便が独占する信書の定義を明確化することを要求した。米国や英国、ドイツなどの例を挙げ、重量、料金など誰でもわかる基準で信書を定義してほしいというのだ。たしかにこれならば、メール便の利用者が郵便法違反におびえる「風評被害」のような状況は解決するだろう。

一方で、定義しだいでは、これまでメール便で出していた書類などが送れなくなる可能性もある。ヤマト運輸を代表して出席した長尾裕・常務執行役員は「一部のサービスに影響が出る可能性は認識している」としつつ、顧客を容疑者にするリスクを防ぐためには甘受するという意向を示した。

ヤマトは信書便に乗り出すのか

ただ、ヤマト運輸が一般信書便に参入する意向を固めたというわけではなさそうだ。一般信書便に参入しないのは、ユニバーサルサービスの維持を名目に、合理的でない条件を課されてはよいサービスはできないから、というのがヤマト運輸の見解だ。その姿勢は変わっていない。信書の国家独占もおかしいとは思っているが、メール便事業の手足が縛られている現状を打破するためには妥協もやむをえないというのが本音だろう。

実は日本郵便も、「ゆうメール」が伸びていることにもろ手を挙げて喜んでいるわけではない。より単価の高い郵便から客が流出しているという面もあるからだ。郵便が独占できる領域がはっきりと確保できるなら、むしろ助かる面もあるとみられる。赤字脱却が至上命題である日本郵便の立て直しは、総務省にとっても大きな宿題だ。ヤマト運輸が投げ込んだ「爆弾」に、どう対応するのか。

ちなみに、5月のフジの番組にはヤマト運輸が撮影に全面協力した。ひょっとして、今回の議論に持ち出すために仕込んでおいたのだろうか。ヤマトホールディングス広報に聞くと「それはありません。視聴者から指摘があったので、問い合わせただけです」とのことだった。しかし、信書問題を世の中にアピールするうえで格好のネタが転がっていたものだ。ここに来て、後藤さんのお母さんが、いきなり告発されないといいのだが・・・・。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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