ヤマト運輸が「信書」問題で方針大転換  フジテレビバラエティでの”違法行為”も論点に

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 明らかに郵便法違反なのではないか? ヤマト運輸が総務省に照会したところ、判定は「郵便法違反」。だが、その後に総務省が後藤さんの母親を警察に告発した形跡はない。

この対応に、ヤマト運輸は納得いかない。なぜか? 同社は2009年度以降に8回にわたって郵便法違反を問われているからだ。うち3件は書類送検もされている。最近の事例では、2011年3月に埼玉県庁からの依頼でメール便で配達した文書が信書にあたるとして、ヤマト運輸も郵便法違反で書類送検された。

郵便法の規定では荷主の責任も問われるため、発注した県庁職員も警察に事情聴取された。最終的には起訴猶予だったが、顧客が「お縄」になりかけたことは同社には大きな圧力となった。一般の荷主にとっては、信書とそうでないものの綱引きなど簡単にわかるものではないだろう。

ヤマト運輸ではメール便のサービス開始当時から「中身が信書に該当しない」ことを確認するためにチェックリストを顧客に渡してきた。2011年9月以降は、顧客に「信書には当たらない」ことを確認のうえサインをもらうことにして対応を強化している。それでも、違反リスクが消えることはない。顧客の側も、メール便の使用には慎重になってくる。

荷受け手続きを厳格化した影響もあり、ヤマトのメール便の扱い冊数は2011年度、2012年度と前期比マイナスを続けてきた。今年度も、2011月までの累計で対前年比1%のマイナスだ。この間、日本郵便が展開するメール便サービスの「ゆうメール」は着々とシェアを引き上げてきた。日本郵便では、荷受けにあたってヤマトのような事前チェックは行っていない。これでは顧客に不安感を与えるだけでなく、事業環境としてもあまりに不公平だ。

ヤマトが歴史的な方針転換

そこで、ヤマト運輸は歴史的な方針転換に踏み出した。これまで同社は、郵便法を根拠に日本郵便が「信書」の送達を独占していることへの異議申し立てを続けてきた。その主張を引っ込め、信書とのすみわけを模索し始めたのだ。

背景には、郵政民営化の際のごたごたがある。2003年に日本郵政公社が発足すると同時に、「信書便法」のもとで民間事業者にも信書送達業務への参入が認められた。バイク便など「特定信書便」には参入業者が出たが日本郵便の郵便サービスのイメージに近い、全国全面参入型の「一般信書便事業」への参入例は今に至るまでない。ユニバーサルサービスの確保を名目にしたポスト10万本の設置など、参入のハードルが高すぎるからだ。

はっきりした定義がない信書という概念をもとに、国が民間企業のビジネスを制限することにノーをつきつけるというのが、これまでのヤマト運輸の姿勢だった。宅急便の創始者である故・小倉昌男氏は、郵便の国家独占を定めた郵便法第5条の廃止を持論としてきた。その姿勢を歴代経営陣も受け継いできたのだ。

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