基礎的財政収支の黒字化、1年前倒しの謎 5年に1度の「年金財政検証」にも影響する

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収支の改善は、歳出側と歳入側の双方の要因が作用する。歳出が抑えられたり歳入が増えたりすれば、収支は改善する。内閣府の資料では、あいにくそのすべてが分解できる形で公表されていないが、公表されている部分から4つの要因に分解してみる。1つ目は国の一般会計歳出、2つ目は地方普通会計(地方財政を代表する会計)の歳出、3つ目は国と地方の税収総額、4つ目は残りの要因(すべてが公表されていないため前三者では説明できない部分)である。

まず、2019年度の国の一般会計歳出は、2018年7月試算では総額が99.0兆円だった。このうち国債費を除いた政策的経費(PB対象経費)は76.9兆円と見込んでいた。ところが、2019年度政府予算案では、歳出総額が101.5兆円、うち政策的経費が77.9兆円と、2018年7月試算より膨らんでいる。

2019年度予算案では、消費増税対策などで臨時的な歳出増が多いのも事実である。2019年1月試算では、臨時的な歳出増の部分は恒久的な歳出増とならない扱いにしている。2020年度までの臨時的な歳出増が終わると、2021年度以降は恒久的な制度や政策に基づく歳出だけになる。そこには、2019年度予算案に盛り込まれた歳出改革の効果までは含むが、2020年度以降は追加の歳出改革を行わない前提で試算されている。

大きい社会保障見直しの効果

そこで、2019年度予算案に盛り込まれた歳出改革の効果を、それを織り込んでいない2018年7月試算と、織り込んでいる2019年1月試算を比較してみると、その差異がわかる。

財政健全化目標の達成年次である2025年度において、成長実現ケースで、国の一般会計の政策的経費の試算結果はどうなっているか。2018年7月試算では88.7兆円と見込んでいたが、2019年1月試算では88.4兆円と、0.3兆円ほど減っている。これは2025年度における収支改善要因となる。とくに、2018年7月試算では、2025年度の社会保障関係費を41.2兆円と見込んでいたが、2019年1月試算では40.5兆円と、0.7兆円ほど減っている点が大きい。2019年度予算などで実施される社会保障の見直しの効果といえよう。

地方普通会計の歳出は、2025年度の政策的経費(PB対象経費)について、2018年7月試算では94.4兆円と見込んでいたが、2019年1月試算では93.4兆円と、1兆円ほど減っている。1つ目と2つ目の要因を合計すると、1.3兆円ほどの収支改善要因となっている。国からの補助金を財源に地方自治体が政策的経費を投じている部分があるから、本来は重複を除かなければならないが、筆者の独自の推計でそれを考慮しても、おおむね同規模の収支改善効果が生じているといえる。

3つ目の要因が国と地方の税収総額だ。2025年度の税収総額(国の一般会計の税収等+地方普通会計の税収)が、2018年7月試算では137.0兆円と見込んでいたが、2019年1月試算では136.8兆円と、0.2兆円ほど減っている。2018年7月試算と2019年1月試算とでは、名目経済成長率はほとんど変わらない見通しとしていて、経済成長に伴う税の自然増収も同程度と見込んでいることから、経済見通しの更新に伴い自然増収が追加的に増えるという効果は、2019年1月試算では含まれていないとみられる。

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