「江戸無血開城」は世界的に見て奇跡である 歴史に学ぶ時代を生き抜く知恵

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

出口:町火消しなんて急に集まれといわれても来ないですから。普段から一緒にドンチャン騒ぎをして、ちょっとした貸し借りを無数にやっている中で、ようやく言うことを聞くんだと思いますよ。

人間って、知らないものを愛することはできないんです。逆に、共に過ごした時間が長ければ自然と愛着が湧いてくる。完全に打ち解けたり、理解し合えたりする保証はありませんが、それでも時間を使わないで人を巻き込むことはできないと僕は思います。

冲方:その辺りは西郷も同じで、やはり「人」の特性を理解しているかどうかがリーダーには不可欠な資質なのでしょう。

出口学長からのリクエスト 次は何を読みたい?

冲方:今日、出口さんのお話を伺って、日本人と海外の関係について改めて興味が湧きました。次は海外に飛び出した日本人を書いてみたい気がします。

出口:それはすばらしい。

冲方:でも、日本人はなかなか外に出ていかないんですよね。

出口:それなら、室町時代の倭寇(わこう)はどうでしょう。

冲方:僕も倭寇には前から興味を持っていました。あれは海賊たちが作り出した共和的な政治体制というか、互助制度というか……。国籍も人種も官位も問わない集団です。

出口:ええ。実態は日本人と中国人と朝鮮人からなる海民、つまり海に生きた人々の共同体でした。そして、略奪ではなく貿易が主たる生計の手段だったのです。しかし、明が鎖国してしまったがために、海賊的な存在にならざるを得なかった。

しかし、商売人としての目は確かで、鉄砲を見て、戦国時代の日本に持っていったら山程売れるだろうと考え、どうせ売るなら劇的にショーアップしたほうがいいというので、ポルトガル人を連れてきたわけです。それをやったのは、後期倭寇の頭領である王直という人物でした。つまり、種子島の鉄砲伝来とは、商売のために王直が仕組んだ大々的なPR活動だったのですね。

『麒麟児』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

冲方:おもしろい!

出口:海賊って要するに商売人なんですよ。バイキングもそうですが、きちんとフェアな交易をしてくれる相手だと、わざわざ暴力を振るったりはしません。略奪より交易のほうが実入りが多いからです。彼らだって、戦って死んでしまえば元も子もないわけですから。しかし、丸腰で行っても舐められる。だから武装したわけですね。

冲方:話が先ほどの方向に戻りますけど、やはり備えが必要だ、と。

出口:その通りです。そうした時代に生きた人々の知恵もまた、江戸無血開城と同じぐらい今の人間には必要なのではないでしょうか。

冲方:いやあ、今日は本当におもしろいお話をたくさん聞けました。ありがとうございました。

(構成:門賀美央子)

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

この著者の記事一覧はこちら
冲方 丁 作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

うぶかた とう

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』でスニーカー大賞金賞を受賞してデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞受賞。09年に刊行した『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞。2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞受賞。他の著作に、『はなとゆめ』『マルドゥック・アノニマス』『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』など多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事