「究極の仮眠室」で鉄道の安全性は向上するか ブレーキ判断からおつりの計算まで効果大?
銚子電鉄のミッションは「この町に銚子電鉄があってよかった。銚電ありがとう」と言われる会社になることだという。早稲田ハウスが配っていた「ありがとうシール」の文字の雰囲気は、そのミッションのイメージにぴったりだった。そこで、車両が引退する「ありがとう運行」の時などに、そのシールを、ぜひお客さんに配らせてほしいと頼んだのだ。
早稲田ハウスの金光容徳社長は銚子の近くにある匝瑳市内の高校出身で、父親が銚子の病院に長期入院していた。何かと銚子とは縁が深い。銚子に恩返ししたいという気持ちが強く、快くシールの使用を許可してくれた。その後も外川駅のネーミングライツを購入し、「ありがとう」駅と命名するなど、両社の関係は深い。
早稲田ハウスは質の高い眠りが質の高い仕事に結び付くことを証明すべく、銚子電鉄に対して、仲ノ町駅に新しい宿直室を寄贈することを申し出た。その宿直室は早稲田ハウスが技術の粋を集めて造り上げた「究極の寝室」である。銚子電鉄からみれば老朽化した宿直室をリフォームしてくれるだけでもありがたい話であり、断る理由はなかった。
安全運転は質の高い睡眠から
古い宿直室と比べて結果はどうだったのだろうか。
2006年に入社した運転士の坂本雅昭氏によれば、それまでの宿直室は粗末なものだったという。アレルギー体質でぜんそく気味だったためか、ちょっとした湿気で鼻水が止まらなくなった。さらにベッドが悪いのか、いつも眠りは浅く1時間おきに目が冷めるというありさまだった。
「当時は、眠ることも大事な業務だと思って必死に寝ようとしました」(坂本氏)。それに対して、新しい宿直室は快適そのもの。一度寝たら朝まで目が覚めない。「宿直室での睡眠も『業務』なのですが、今では寝ることが楽しみで『業務』だとは思わなくなりました」。
実際に電車の運転士がこんな話をすると、いかにも説得力がある。
さらに、こんな話もしてくれた。
「よく眠ることができると判断力、集中力が違います。ブレーキをかけるタイミングがいつも以上によくなりますし、お釣りの計算も速くできます。なんといっても、いい笑顔、大きな声でお客さまにあいさつできるようになる。睡眠の大切さをあらためて実感しました」(坂本氏)。
ここまで言われたら、運輸業者もドライバーの仮眠室の環境を考え直してくれるに違いない。銚子電気鉄道×究極の寝室……。銚子電鉄には、「究極の寝室体験カー」を紹介するために、このような体験談を話してもらうことが期待されているわけだ。
「誤解をおそれずに言えば、点呼の時の確認だけで睡眠不足を防止できるとは思えない。体験してみて、よい寝室は睡眠不足の解決に役立つと実感しました。ですから、いくらでも話をしようと思ったわけです」(坂本氏)。「究極の寝室体験カー」に加えて、運転する者にとっての睡眠の大切さを伝えてくれる伝道師もできた。
運輸業以外にも宿直を伴う職業はたくさんある。そうしたところにもどんどん出動して、質のよい睡眠を広めていきたいという。よい睡眠が広がれば、日本の「おもてなしレベル」はさらに上がるかもしれない。
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