【産業天気図・証券業】金融混乱の長期化・深化で赤字転落が続出、「雨降り状態」は長期化の様相
08年10月~09年3月 | 09年4月~9月 |
今年9月のリーマンショック以後、一段と深刻化した金融市場の混乱に加え、世界の実体経済が急速に押し下げられる中で、証券業の収益環境が厳しさを増している。証券業の2008年度後半の天気見通しは「雨」として、前回(9月)予想を踏襲する。09年度前半についても「雨」とし、多少はアク抜け感が出る可能性もにらんでいた前回予想の「曇り」から下方修正して、業績低迷の長期化を想定する。
証券業を主体とする上場各社の08年4~9月期決算は、米国会計基準の野村ホールディングス<8604>とネット専業3社を含む上場21社のうち、前期の事業承継で戦力参加したFX(外国為替証拠金取引)が証券部門の事業規模よりも大きくなったインヴァスト証券<8709>を除く20社が、営業減益もしくは営業損益段階で赤字に陥った。営業赤字は13社だった。
3月に一時1万2000円を割り込んだ日経平均株価は、5~6月上旬にかけて1万4000円台を回復したものの、その後は米国発の金融不安がくすぶり続ける中で、ダラダラと値を下げ、9月15日に米証券大手リーマン・ブラザーズが破綻したのをきっかけに、3月安値を割り込むまでに株価が急落した。
証券会社にとっては、株式市場低迷の影響で、主力とする株式委託手数料収入が落ち込んだほか、IPO(新規株式公開)や増資引き受けなどの投資銀行業も苦戦。07年前半は好調だった投資信託の販売についても、不振だった。
大手をはじめ、対面営業型の証券会社は総じて苦戦した。一方で、大幅減益となったものの、ネット専業の上場3社(松井証券<8628>、マネックスグループ<8698>、カブドットコム証券<8703>)は、安定して黒字を稼いだ。今や、個人の株取引は売買代金ベースで9割以上がネットに移行している。加えて、営業員を配置しない低コスト型のビジネスモデルが奏功し、この相場局面においても黒字を保ったようだ。
08年度後半を見渡すと、証券会社の事業環境は一層厳しさを増している。リーマン破綻とほぼ同時に、米政府による支援が決まった米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を始め、米国の大手金融機関が次々と経営破綻や政府管理に追い込まれるなどの混乱が続く中で、米下院が、金融機関への公的資金の注入などを規定した金融安定化法案を一時否決。政策対応も後手に回り、世界の株価下落とともに、日経平均はバブル後最安値だった03年4月の水準を下回り、一時は6000円台にも突入した。11月~12月上旬にかけても株価は8000円前後をうろつく低迷が続いている。
そして、リーマンショックは、世界の実体経済にもダメージを与え始めている。自動車販売や失業率、工作機械受注・・・。あらゆる経済指標が、かつてないほどの水準に悪化しており、企業業績にとっても逆風が吹く。投機マネーは、株式などのリスク性の高い資金からの“逃避”が強まっている。株式や投信、投資銀行業など、証券会社の事業領域のあらゆる分野が苦戦を強いられる。それは今09年3月期でアク抜けせず、少なくとも来10年3月期までは引きずりそうだ。
「会社四季報」新春号では、上場証券21社の今09年3月期業績予想について、インヴァスト証券を除く20社の営業損益(野村HDは税前損益)を減額した。赤字予想は14社に上った。
野村HDは一連の金融混乱に伴うポジション(持ち高)の損失に加えて、経営破綻したリーマンから欧州・アジア部門の人員を雇い入れたほかに、インドのIT子会社の買収に関連した費用を一時的に計上することも見込まれている。本業も投資環境の悪化が直撃しており、4000億円の税前赤字を予想。大和証券グループ本社<8601>以下の主要証券会社についても、苦しい展開を強いられるだろう。
証券界にもリストラの波がじわりと押し寄せつつある。米銀行大手シティグループの完全傘下入りによって、すでに上場廃止となっている日興コーディアル証券が、希望退職を募集。役員数の削減も決めた。日興コーディアルが4~9月期で営業黒字ながら、リストラに着手したのは、親会社であるシティが全世界的に合理化を進めている一環には違いないが、日興コーディアルを取り巻く収益環境を考えると、「今のうちに身軽な体質にしておかなければ、この先の厳しい環境下で生き残れない」(同社幹部)という危機感がある。6割の証券会社が営業赤字になる事態の中での黒字リストラの意味は重い。
(武政 秀明)
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