ヘイトを撒き散らす危険な「愛国思想」の元凶 「教育勅語=日本人至上主義」と認識すべきだ

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日本社会に暮らしている「同胞でない人」の中で最も数が多いのが在日コリアンだ。彼らが自らの民族の言語、文化、歴史などを学ぶために設置しているのが朝鮮学校である。安倍政権は朝鮮学校を高校無償化制度から排除し、各都道府県等に対し、朝鮮学校への補助金を見直すよう促した。このような動きを、私は「官製ヘイト」と呼んでいる。

「在日に日本人の税金を使うな」などと筋の通らない主張をする者がいるが、在日コリアンの人々もしっかり税金を納めている。官製ヘイトがまかり通る背景には、在日コリアンの人々に対する偏見と差別意識がある。「同胞でない人は大切にしない」という意識が、その偏見や差別の土壌になっている。そういう偏見・差別の極端な姿が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のようなヘイト団体だ。

日本は血のつながった日本人だけの国だという國體思想は、移民という「異なる血」を日本の社会に入れることを拒否する思想である。安倍政権は國體思想にとりつかれた政権だから、当然移民を嫌う。

ところがその反面、深刻な人手不足に直面する経済界からの要求に押されて、外国人労働者の受け入れを本格化するための出入国管理難民認定法の改正を強引に行った。これは事実上の移民解禁だと言ってよい。

移民を受入れるのであれば、教育、福祉、医療、住居その他生活万般にわたる円滑な受け入れ環境の整備を行わなければならないはずだ。しかし、安倍首相は移民政策は採らないという。つまりは、外国人労働者を人間扱いしていないということだ。

教育勅語「再生」への野望は危険だ

今後、急激に労働人口が減少する日本において、移民受け入れは不可避の政策だと私は思う。そうであるならば、来日する外国人に対して無償の日本語学習機会を整備し、母語や自民族の文化・歴史を学ぶ機会を保障するなどの手立てを採るとともに、互いの文化や民族性を尊重し、隣人として、日本の社会の形成者として共生するための意識改革を、学校教育や社会教育を通じて進めることが不可欠だろう。そういう政策をしっかりと進めることにより、多文化多民族共生社会の形成を明確な目標として目指すべきである。

多文化多民族共生社会の対極にあるのが、日本という国を特別な血縁共同体だと観念する國體思想だ。この思想が増殖すれば、日本の社会は分断と対立に陥っていくだろう。この危険思想が学校の道徳教育を通じて拡散されれば、日本中でヘイトスピーチやヘイトクライムが起きるだろう。アメリカで暴れ回る白人至上主義と同様の「日本人至上主義」が社会問題化するであろうことは想像に難くない。

安倍政権およびそれを取り巻く勢力は「教育再生」という言葉が好きだ。「教育再生首長会議」なる市町村長の集まりや「日本教育再生機構」なる民間団体も設立されている。彼らが再生させようとしているものは、結局のところ教育勅語およびそこに込められた國體思想であり、國體思想に基づいた独りよがりの世界観・歴史観である。

安倍政権に蠢く教育勅語「再生」への野望は、外国人大量受け入れ時代において、日本の社会を偏見、差別、分断、対立、憎悪、敵対、抗争、暴力へと追い込んでいく危険性をはらんでいる。

前川 喜平 現代教育行政研究会代表、元文部科学事務次官

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まえかわ きへい / Kihei Maekawa

東京大学法学部卒業後、旧文部省入省。初等中等教育局長などを経て2016年事務次官。2017年1月、天下り斡旋問題で辞任。現在、全国各地で講演しながら、「教育政策をめぐる現代的諸課題」をテーマに日本大学文理学部で講義するほか、夜間中学での指導にも当たる。

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