ヘイトを撒き散らす危険な「愛国思想」の元凶

「教育勅語=日本人至上主義」と認識すべきだ

元々次官に目されていた人物は、政治による教育への介入を警戒し、首相官邸とは一定の距離を置こうとする教育行政官だったが、実際に次官になった人物は、おそらく今後首相官邸と一心同体となった教育行政に突き進むだろう。

このような首相官邸による文部科学省の支配は、道徳教育や歴史教育といった安倍政権が特に強い関心をもつ教育分野に対する政治介入として働く可能性が高くなる。道徳教育においては、教育勅語と國體(こくたい)思想の復権がもくろまれるだろう。その「画竜点睛」となるのは、学習指導要領道徳編に「天皇への敬愛」を書き込むことなのである。

血統主義と排外主義

ここで今一度、短期連載1回目で言及した柴山文部科学大臣の発言を引きたい。

柴山大臣は2018年10月5日の記者会見で、教育勅語には現在に通用する内容もあるとし、たとえば「同胞を大切にする」という徳目を挙げている。教育勅語には「同胞」という言葉は出てこない。しかし「兄弟ニ友ニ」「朋友相信シ(じ)」という徳目は書いてある。柴山氏の発言はこのあたりの記述を指しているのだろう。

「同胞」とは何か。「胞」とは母親の胎内で胎児を包む膜のこと。だから同胞とは同じ母親の胎内から生まれた兄弟姉妹のことだ。そこから転じて、同じ民族や同じ国民を指す言葉として使われる。しかし、ここでの「国民」は、祖先を同じくする血のつながりを前提にした観念である。同じ縦の血統のもとに生まれてきた人々という意味だ。

こういう国民観は、日本の国籍法にも「血統主義」として反映されている。血統主義とは、生まれた子どもには親の国籍を与えるという考え方だ。対照的な考え方は「出生地主義」。生まれた子どもには生まれた国の国籍を与えるというものだ。日本人から生まれた子どもでなければ日本人ではないという観念は、多くの日本人に共有されている。

一方、日本語の「日本人」という言葉は、「日本国籍を持っている人」とは一致しない。ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎氏はアメリカ国籍を持っていたが、メディアは「日本人受賞者」と報じた。タレントのボビー・オロゴン氏はナイジェリア出身で現在は日本国籍を持っているそうだが、この人のことを「日本人」と呼ぶ人は少ないだろう。

古くからの血のつながりを「日本人」の暗黙の条件として考える人が「日本人」の大多数を占めているということだ。

国民と同胞とを一体視する思考は、国家と家族も一体視する。国家とは血筋を同じくする大きな家族、即ち血縁共同体だという観念だ。それはまさに「國體思想」である。1937年に文部省が作成・配布した「國體の本義」という文書にはこう書いてある。

「我が國は一大家族國家であって、皇室は臣民の宗家にましまし、國家生活の中心であらせられる。臣民は祖先に對する敬慕の情を以て、宗家たる皇室を崇敬し奉り、天皇は臣民を赤子として愛しみ給ふのである。」

このような家族国家観は、直ちに自民族中心主義につながり、それはさらに排外主義や人種差別主義を呼ぶ。「同胞を大切にする」ということは、「同胞でない人は大切にしない」ということだからだ。

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