ヘイトを撒き散らす危険な「愛国思想」の元凶

「教育勅語=日本人至上主義」と認識すべきだ

教育勅語はヘイト思想だ(写真:Richard Atrero de Guzman/NurPhoto via Getty Images)  
安倍晋三首相が政権復帰してから6年を迎えたが、文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏は安倍政権に蠢く教育勅語「再生」への野望を憂慮する。前川氏が全3回にわたって、なぜ教育勅語がダメなのか解説する。第3回のテーマは「教育勅語という亡国政策」。

教育勅語に代わる国民道徳を定めようとする試みは、戦後繰り返し行われた。その最初のものが、天野貞祐文部大臣(1950年5月~1952年8月)の修身復活論と「国民実践要領」の作成だ。

1950年11月、全国都道府県教育長協議会において天野文相は「みんなが心から守れる修身を、教育要綱というかたちでつくりたい」と発言。さらに同月新聞に「わたしはこう考える――教育勅語に代わるもの」と題する論考を発表し、教育勅語に代わる道徳的規準の必要性を説いた。

1951年9月には「国民実践要領」を文部大臣名で発表する方針を示したが、10月参議院本会議における「国家の道徳的中心は天皇にある」との発言が批判を呼び、11月には同要領の発表を白紙撤回した。

この要領は1953年に私的な書物として刊行されたが、「愛国心」という徳目について「国を愛する者は、その責任を満たして、国を盛んならしめ、且つ世界人類に貢献するところ多き国家たらしめるものである。真の愛国心は人類愛と一致する」などと記述され、「天皇」という徳目では「われわれは独自の国柄として天皇をいただき、天皇は国民的統合の象徴である。それゆえわれわれは天皇を信愛し、国柄を尊ばねばならない」うんぬんと記述されていた。

1966年には、中央教育審議会「期待される人間像」を発表した。これは、1963年に荒木万寿夫文相が行った「今後の国家社会における人間像はいかにあるべきか」という諮問に応えたもので、当時中央教育審議会委員だった京都学派の哲学者、高坂正顕氏が中心となって起草したものだ。

「正しい愛国心を持つこと」という徳目では、「世界人類の発展に寄与する道も国家を通じて開かれているのが普通である。国家を正しく愛することが国家に対する忠誠である。正しい愛国心は人類愛に通ずる」などと記述されている。

「象徴に敬愛の念をもつこと」という徳目では、「天皇への敬愛の念をつきつめていけば、それは日本国への敬愛の念に通ずる。……このような天皇を日本の象徴として自国の上にいただいてきたところに、日本国の独自な姿がある」などと書かれている。

1953年に天野貞祐氏が発表した「国民実践要領」によく似ているのは、いずれも作成の中心となったのが高坂氏だったからである。

「父母への敬愛」はあっても「天皇への敬愛」はない

「国民道徳」を定めようとする国の動きはその後下火になったが、事実上の国民道徳になったのが、学習指導要領道徳編だ。1957年8月、岸信介内閣の文部大臣松永東は記者会見で「民族意識や愛国心の高揚のために道議に関する独立した教科を設けたい」と発言。そのわずか8カ月後の1958年4月には、週1時間の「道徳の時間」が通達によって始まった。これを「特設道徳」と呼ぶ。

教育課程審議会は政治決定を後追いする形で審議し、実施直前の3月に答申。「道徳の時間」を設ける省令改正は5カ月遅れの8月末、学習指導要領道徳編の告示は6カ月遅れの10月だった。

この1958年学習指導要領で道徳は、「教科」とは異なる教育課程の「領域」の1つとして位置付けられたが、その内容としてはたとえば「家族の人々を敬愛し、よい家庭を作りあげようとする」「日本人としての自覚を持って国を愛し、国際社会の一環としての国家の発展に尽くす」といった徳目が並べられた。

その後、内容項目(徳目)の組み替えや表現の見直しは行われたが、この60年あまりの間、基本的な内容はおおむね維持されてきており、「特別の教科」となった現在も、「父母、祖父母への敬愛」「国を愛する心」「日本人としての自覚」は記述されているが、「天皇への敬愛」は書き込まれていない。

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