決断力を磨くためには現場の修羅場も必要だ サントリー新浪社長が培った意思決定力

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――経営者として意思決定や決断をするうえで、難しいと感じることはどれくらいありますか?

新浪:それはもう、難しいことだらけですよ(笑)。ときには朝令暮改ならぬ「朝礼朝改」をしたこともありますから。でもそれは、損失をなくすために行ったものなので、一般的には恥ずかしいかもしれませんが、僕自身は恥ずかしいとは思わなかった。

印南:僕は意思決定などを教える立場にあるけど、そういうメンツにとらわれない決断ができる人は本当に少ないですよね。高校の頃から新浪をみているけど、本当に合理的だし、戦略的。そして人間が熱い。大きな決断をするために必要な要素がそろっていますね。

決断するときに悩むことで人間力が身に付く

新浪:よく知っているね(笑)。でも思うに、決断をしていくうえで悩んでいるから人間力ができていくのかなと思います。それを避けていたら、いつまで経っても人間力は培われない。僕は2014年の10月にサントリーの社長に就任しましたが、会長(佐治信忠氏)をみていると、やはり相当大きな決断をしていますね。

印南 一路(いんなみ いちろ)/1958 年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部教授。専門は医療政策と意思決定・交渉領域。東京大学法学部卒業、富士銀行(現みずほ銀行)、厚生労働省勤務ののち、ハーバード大学行政大学院、シカゴ大学経営大学院で学ぶ。シカゴ大学経営大学院助教授やスタンフォード大学留学などを経て、2001 年より現職。著書に『すぐれた意思決定』(中公文庫)などがある(撮影:今井康一)

印南 簡単にできそうだけど、メンツやプライドがあるから割とできないんですよね。批判するのは簡単だけど、批判を受けるのを覚悟で軌道修正するのは、なかなか大変です。

新浪:日本の企業はどうしても人間関係を重んじがちになるので、僕は先の第二次世界大戦で軍部や政府が行った決断を、日本人はいまだにしているのではないかなと思っています。「大本営が決めたことだから仕方がない」という感じで、間違っていると感じていても従ってしまう。それで失敗しても、誰も責任を感じない。その辺が日本の弱いところなのかなと思います。

――印南先生は大学で意思決定についての講義を担当していますが、学生もトレーニングで決断力が身に付いていると思われますか?

印南:誰でも意思決定はできますが、すぐれた意思決定をするのは難しいというのが私の実感です。経験は必要不可欠ですが、経験任せで学べるものでもありません。『サバイバル決断術』で書いたように、意思決定のフォーマット(フィルター)に従って、どれくらい意思決定が重要なのか、意思決定するための選択肢をどう創り、どう評価するのか、意思決定の結果から何を学ぶのか、などの思考プロセスをルーティン化するよう教えています。こういう部分はトレーニングで十分鍛えられます。

ただし、最終的に決断するのは本人なので、本当にできるかどうかというのは、実際に決断を求められる局面に立たないとわかりません。ちなみに、僕が教えている学生は起業志向が強いですが、そういう子は決断力に富むことが多いですね。

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