決断力を磨くためには現場の修羅場も必要だ サントリー新浪社長が培った意思決定力
新浪:経営を学びたいのであれば、経営学を学ぶよりも自分で起業して実戦の舞台に立ったほうが身に付くし、若い頃に失敗しても傷が浅いからね。
印南:人生は思うようにいかないところがあるけど、1つの決断が予想外の展開を生み、次の決断を呼び込むことがあります。僕自身も大学受験に失敗し、裁判官を目指して勉強したものの、これも司法試験に失敗。銀行に就職しましたが、そこから厚生労働省に出向して医療政策に興味を持ち、留学して意思決定分野に関する博士論文を書いたのを機に意思決定論がもう1つの専門になりました。
もちろん、その時点で最善の決断をする努力をすべきですが、いったん決めたら後ろは振り返らず、どういう行動をするのかを考えて実践するのが大事です。十分計算したうえでのことなら、思い切ってリスクをとるほうが後悔は少ないはずです。
――組織での意思決定で気をつけないといけないことは何でしょうか?
印南:日本の組織だと意見の対立を嫌い、満場一致を好むイメージがありますが、一方で、ユダヤ社会には「むしろ満場一致の意見には気をつけるべき」という鉄則があります。大きな意思決定になるほど現状認識や将来予測、意見に不一致があるのは当たり前で、どうしてその違いがあるのかを議論して深めていく過程が大事だからです。そして、意見を戦わせたうえで、最終的に誰かが責任をもって決断するのがベストの意思決定です。

ところが、日本の場合は多数派工作をするために根回しをして、会議が始まるときにはすでに意見の大勢が決まってしまっている。皆それに逆らうのは怖いから、「心の底でこれはよくない」と思っていても反対意見は言わない。自己検閲するのです。意見自体の根拠を深めていないから、その意見に乗っかって集団として大きく失敗することもあります。もちろん、収めるところは収めないといけないので、根回しが必要な場面というのもありますけれど。
新浪:決断したあとにそれをインプリメンテーション(実践)しますが、現場との間にわだかまりがあると事がうまく進みません。そのため、現場の方たちとの根回しや腹落ち(納得させること)も大いに必要です。特に実践に関わる人が反対派だった場合には、より対話に時間をかけないといけません。
一方で、人事に関しては根回しの必要はありません。人事は組織においてのメッセージだから、妥協したら組織がおかしくなってしまいます。ただ、どうしてこういう人事になったかというのは、周囲が「明確な理由はないけれども、わかる」と納得できる人事をやらないといけません。
リーダーは組織の成長を自らが担っているという認識を
印南:人間関係が傷つくのを恐れて意見を言わなかったり、いわゆる忖度(そんたく)をしてしまう人もいるけど、リーダーがそんな感じで決断するのは組織にも悪影響を及ぼしてしまう。
新浪:リーダーというのはかっこいいとか全然そんなことはなくて、結構つらいもの。でも最終的には、組織の成長を自らが担っているという認識を持たないといけない。自分のお気に入りだけを下に置いておけば楽かもしれないけど、それでは組織がおかしくなってしまう。嫌がられることであっても、先のことを考えて決断する意識を持つことが、今のリーダーには求められているのです。
――最後に、AI(人工知能)がさまざまな分野で活躍していますが、今後、人間社会でAIはどのような意思決定を担うと思いますか?
新浪:AIはマシンラーニング(機械学習)の部分では有効で、情報整理などには非常に役立つと思います。ただし、ディープラーニング(深層学習)の部分になると意思決定のプロセスや根拠が見えないブラックボックス化する危険性があり難しい部分でもあります。とはいえ、まず使ってみるのはいいと思います。
印南:AIは大量のデータがあれば予想の精度が高まっていきます。基本的には与えられたデータの範囲内での推論は得意としますが、データの範囲外の推論が正しいかどうかはわかりません。AIの判断結果を無条件に信頼するのではなく、AIの判断がどれくらい良いかを恒常的に検証する必要が出てきます。今後AI時代が到来すれば、AIが判断する場面も増えてきますが、クリエイティブな判断や倫理的な判断は難しいのではないでしょうか。そのため、最終的に意思決定するのは人間の役目だと思います。
新浪:何でもかんでも機械任せのリーダーじゃ、誰もついてこないからね(笑)。AIは意思決定のサポートにはなるけど、最後の決断は人間が行う。人の組織の上に立つという点では、そうあるべきではないかなと思います。
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