地方銀行を襲う”三重苦”、再編はさらに加速

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地方銀行を襲う”三重苦”、再編はさらに加速

九州地方に始まり、東北や関西へ飛び火した地銀再編のうねりは、トヨタ自動車のお膝元で、比較的経済が好調といわれてきた東海地方にも及び始めた。

公的資金の注入を受けて経営再建中の岐阜銀行は12月1日、同じ岐阜市内に本店を置く十六銀行と資本支援を中心とする協議を始めると発表した。岐阜銀は有価証券の評価損や不良債権処理コストの増加が直撃し、2008年9月中間期で約17億円の最終赤字に転落。期間損益の赤字に加え、保有する有価証券の評価損が影響し、連結自己資本比率も08年9月末に6.85%(08年3月末は8.07%)まで急低下した。

「他行との提携の可能性も考えたが、自然な流れとして(十六銀行との提携が)いちばんふさわしい」

岐阜銀の大熊義之頭取は、同じ地盤のライバルでもある十六銀に支援を仰いだ理由について、こう説明する。確かに、日本銀行、十六銀行専務を経て入行した宇佐見鐵雄氏が20年間岐阜銀の頭取(社長含む)を務めるなど、関係は決して浅くない。

また、両行の筆頭株主はともに三菱東京UFJ銀行(BTMU)で、岐阜銀には20・8%、十六銀にも4・7%を出資している。「岐阜銀へは人的支援や設備の共同利用を行っているが、やはり自力で頑張っていただく。それ以上でもそれ以下でもない」(BTMUの佐々和夫副頭取)。岐阜銀の支援姿勢を問われた幹部がこう述べていたように、大株主の一歩距離を置いた姿勢も今回の提携につながったようだ。

提携具体化はこれから 相乗効果はどこまで

ただ、十六銀行の小島伸夫頭取が「スタートラインに立ったばかり」というように、両行提携の具体化はこれからだ。提携取りまとめ時期について「いつまでも引き延ばすのは相手に大変失礼な話」(小島頭取)としつつも、白紙撤回の可能性は「パーセンテージとするとゼロではない」(同)とも指摘。肝心の十六銀による資本支援額や注入方法も会見では「これから詳細を詰めていく」と述べるにとどまった。

08年12月期からの適用が検討されている自己資本比率規制の緩和の影響で、岐阜銀の自己資本比率の数値は見かけ改善する可能性が高い。しかし、仮にリスクアセットが9月末と同じとすると、岐阜銀の自己資本比率を8%台に回復させるためには、60億円弱の資本支援が必要になる計算だ。

今のところ十六銀にとっての提携メリットも見えにくい。同行の主戦場は岐阜、愛知両県だが、岐阜県内の貸出金残高はここ数年横ばい状態が続いている。市場規模も愛知県のほうが格段に大きく、名古屋市などに11年ぶりに支店を開設するなど、愛知県内での店舗網拡充を図っている。一方、岐阜銀の店舗網は岐阜県内が中心で、愛知攻略を進めたい十六銀の経営戦略とは異なっている。

小規模地銀の脆弱さ さらなる支援事例も

業績悪化は岐阜銀に限ったものではなく、08年9月期の地銀110行(埼玉りそな銀行を含む)の決算を見ると、地銀がここへ来て急速に体力を弱めつつあることがわかる。本業である貸出関連収益や投信などの販売から得られる手数料収益が伸び悩んでいるうえ、与信費用の増加と有価証券の関連損が加わり、地銀の収益環境はいわば「三重苦」に見舞われているからだ。

損益の悪化ぶりが集約的に現れているのが、自己資本比率だ。08年9月期の連結自己資本比率を低い順に見ると、預金量の小さい地銀が上位に並ぶ。今年7月に国有化から脱したばかりの足利銀行(08年9月期の預金平残4兆2179億円)を除き、豊和銀行(4524億円)、長崎銀行(2833億円)、福邦銀行(4350億円)と、資金量が数千億円規模の小規模地銀が目立つ。

保有する資金量が小さいため、貸し出しや有価証券運用による収益の規模も小さくなり、貸出先の経営悪化による与信費用の計上や運用する有価証券の急激な価格変動といったショックに耐え切れず、たちまち赤字に転落してしまう。長崎銀や南日本銀行などは09年3月期の通期業績予想を最終赤字と見込んでおり、そうでない地銀も軒並み期初の業績予想を下方修正している。

さらに財務体質の脆弱な地銀は、不良債権比率が比較的高いのも特徴だ。全地銀110行のうち、不良債権比率トップは親和銀行の13・44%で、次いで高知銀行、東和銀行、きらやか銀行、豊和銀行、と自己資本比率の低い地銀が並ぶ。

「トヨタショックが東海地方にも色濃く出ており、後ろ向きの話が出てきた。景気はこれから下方に向かい、信用リスクを意識せざるをえない」(十六銀の小島頭取)。今年の下期から来年度にかけて景況感がいっそう悪化し、与信費用の増加が業績をさらに下押しするという「負のスパイラル」に陥る地銀が出てくることが予想される。

新たな手立てとして、予防的な公的資金の注入を可能とする金融機能強化法(今年3月に期限切れ)が復活する見通しだが、今回のように体力の低下した地銀を救済する事例はなおも出てきそうだ。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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