三菱「デリカD:5」の顔が極端にいかつい理由 走破性を維持しながらも見た目が大きく変化

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ざっと歴史を振り返ると、商用の実用車から乗用へという道筋の中で、4輪駆動をいち早く採用し、以来37年の実績を積み上げてきたのがデリカD:5である。系譜からも、舗装路・未舗装路の区別なく走破性を特徴としていることがよくわかる。

そこに今回、外観的な存在感をより高め、また都会での利用を重視した車種追加も行うビッグマイナーチェンジが行われたのである。

トヨタのアルファード、ヴェルファイアのみならず、同社の5ナンバーミニバンである「ノア」「ヴォクシー」「エスクァイア」も、いまでは全体的にいかつい顔つきに替わっている。こうしたクルマの顔つきは、軽自動車でもメッキ加飾を多用した“ドヤ顔”と評される車種が販売を伸ばす傾向にあり、多くの軽自動車にそうした顔つきの車種が設けられている。

デリカD:5の新しい顔つきは、そうした時代の流れを背負ってもいる。車体寸法は、アルファード、ヴェルファイアや日産自動車の「エルグランド」よりひと回り小型で、ミドルクラスミニバンとなる。したがって、直接的な競合とはならないし、デリカD:5の走破力という独自性はほかのどの競合にも当てはまらない。見比べて選ぶのではなく、指名買いされるミニバンがデリカD:5ということになる。

”顔”のインパクトで消費者への印象づけ

しかしそれでも、新しい顔つきと、都市での利用を主眼としたアーバン・ギアの車種追加により、ほかの銘柄から乗り換えてみようかという誘いになる可能性を持ったといえる。

こうしたいかつい顔の傾向は日本に限らず、ドイツ車でも多く見られる。顔をはっきり見せる手法を最初に採り入れたのはアウディで、2005年の「A6」に採用したシングルフレームグリルがそれだ。BMWも、新型が出るたびにキドニーグリルが大きくなり、メルセデス・ベンツもかつてはスポーツ車種のみだった「スリー・ポインテッド・スター」をセダンなどほかの車種でもグリルに設け、顔つきを強調するようになっている。

この傾向は、デジタル社会とグローバル化という変化の中で育ち、普遍性を持ったのではないか。瞬時に世界情勢を知り、判断し、次へ進む。足踏みするゆとりのない社会が、瞬時に車名を言い当てさせ、存在を知らしめる極端な顔をクルマにもたらした。

またデジタル化は、空気の流れを画面上で模擬する技術を育て、クルマの輪郭で車種の個性を表す造形から空気抵抗の少ない画一化された造形へ向かわせた。そこで違いを示すなら、顔つきの差でしかないだろう。

合理的ではあるが、情緒の薄い世界。それが、先進国を中心としたクルマ離れを加速し、所有から共同利用へ向かわせていると言えなくもない。良しあしではなく、それが時代の変化であり、今の流行であり、クルマという価値が分岐点にあることを明らかにする。

デリカD:5は、そうした造形の流れに一歩足を踏み入れたが、一方で、他に類を見ない走破力という特徴を持つだけに、利便性が満たされればどのクルマでも意に介さない共同利用の合理性ではなく、自ら所有する意味や価値を強く実感させるミニバンだと思う。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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