日本企業に足りないのはAI経営の本質理解だ 経営共創基盤・冨山和彦CEO「自前主義捨てよ」

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日本の法律は「これとこれはしていいよ」と書いてあること以外はできない。一方で、アメリカと中国は法律で行ってはいけないことを書いている。技術の進展が早くなっているにもかかわらず、日本は業界保護になっていて、イノベーションにまったく向いていない。法律をホワイトリスト型からブラックリスト型(※2)に変えないといけません。

冨山 ブラックリスト型の法律を作ってはならないとは、憲法には書かれていません。強い政権が本気になれば基本的な法体系のあり方を変えたり、「禁止されていないものは原則自由」という方向に切り替えることはできるはずです。そもそも日本は自由主義国家ですから、本来は原則すべて自由なのです。

しかし、日本は「お上がやっていいよ、ということを民がやる」というモデルを明治時代から引きずっています。そろそろ本来の自由主義国家になったほうがいいと思います。

AI「開発」ではなくAI「活用」が賢明だ

中島 昨年頃から、AIは具体的な利用事例や先進事例が出始めています。日本企業はAIとどのように向き合っていくべきだとお考えですか。

冨山 2つのアプローチが考えられます。1つは誰かが作ったAIをタダまたは安く使い倒すアプローチ。もう1つはAIを競争領域と捉えて差別化、付加価値を作っていくというアプローチです。

冨山和彦(とやま かずひこ)/ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年、産業再生機構設立に参画し、COOに就任。同機構解散後、株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立(同社代表取締役CEO)。経済同友会副代表幹事、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める。著書に『AI経営で会社は甦る』(文藝春秋)などがある。

例えば、バス会社を経営していて、5000人のドライバーがいるとします。運転手が足りなくて困っているときに、自動運転技術がたくさん出てきたら、それをタダまたは安く使えばいい。自分たちでAIを開発する必要はまったくありません。

今のAIの開発トレンドからすると、オープンソースになっていくし、安く使えるようになる。これは誰でも手に入るので、競争領域ではありません。それを使う能力があれば大丈夫です。

もう1つは、たまたま日本に、AIのある分野のドリームチームが集まってベンチャーを作ることができた場合、AIそのものが付加価値や競争領域の中心となります。これはすごい例外です。企業の90%は前者だと思います。

中島 松尾豊先生(本書編集委員、東京大学大学院特任准教授)は研究でも勝てると言っています。分野によっては勝てるかもしれませんが、私も企業は使う側に回ったほうがいいと思います。

冨山 AIを競争領域だと考えて、頑張って開発しようとするのがいちばん危ないです。資源を投入して、自動運転のモジュールを搭載してみたら、Mobileye(※3)のほうがよっぽどよくできていて、値段は10分の1なんてことが起きてしまう。それなら最初からMobileyeを搭載したほうが賢い。日本企業は自前主義にとらわれているところがあります。

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