「女子の受験」を襲った想定外の"3つの関門" 6年間のサピックス生活の後半に起きたこと

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確かに前年の新年会で「どこを受けるの」など、受験の話が出ていたという記憶はあったが、差しさわりのない話にしか聞こえなかった。「わが家の長女というだけでなく、うちの親族にとっては初孫で、みんなの目が向きやすかったのは確かですが、ここまで思い詰めさせていたなんて」。

すでに大晦日、今さら場所を変更するわけにもいかなかった。知子さんが事前に親族に連絡をとった。「絶対に受験の話を出さないで」と、釘をさしての集まりとなった。

第3関門 緊急入院に揺れた心

満を持しての本番でも、大きな事件が葉子ちゃんを襲う。

2月1日に予定した第1志望校の受験前日、1月31日のことだ。当時2歳の妹のゆつきちゃん(仮名)を突然激しい腹痛が襲った。病院に行くと腸重積と診断され、そのまま緊急入院。母親の知子さんは病院での泊まり込みの看病を余儀なくされたのだ。

緊急オペの可能性もあるという状況下、病院のベッドに横たわる次女はもちろん心配だが、受験を明日に控えた長女・葉子ちゃんの気持ちを考えると、胸が痛くなった。「大事な日に娘についていてやれない」。眠れぬ夜を明かした。

夫や自身の母と連携し、知子さんは早朝に病院を出て自宅に戻り、持ち物のチェックをするゆとりもないまま試験会場へと向かった。会場はまだ開門前。せめて、試験会場入りを見届けたいと考えていた知子さんに、葉子ちゃんが言った。

「私は大丈夫だから、早くゆつきのところに帰ってあげて」

妹を心配する不安な気持ちのまま挑んだせいなのかどうか、その第1志望校は手応えのないままあえなく終わった。しかし、葉子ちゃんの心はすでに翌日の第2志望校の試験に向いていた。母からのメンタルの支えがなくとも前を向き、試験に向かえるほど葉子ちゃんは立派に成長していた。

翌日の2月2日、母の知子さんが依然ゆつきちゃんの看病があって付き添えないなか、今度は叔父と第2志望校の受験会場に向かった葉子ちゃん。偏差値60台のその女子校に見事、葉子ちゃんは合格した。早い思春期の訪れや、試験直前の不安で何度も爆発するような精神状態をしのいだ後にやってきた、妹の緊急入院という大事件。それらを乗り越えて手にした合格だった。

誰よりも長かった受験生活を無事に終えたいま、知子さんは安堵の表情を浮かべる。「学校で出る宿題が膨大で、大変そうではありますが、楽しく学校に通っています」(知子さん)。

中学受験は親子の二人三脚、親の伴走次第で子どもは変わると言われるが、伴走の仕方を一歩間違えば、その後の親子関係や日常生活にまでそのツケが回ることは少なくない。成績が横ばいでもそのことをとがめず、娘の気持ちに寄り添うことに徹したことが、強いメンタルを葉子ちゃんに授けたのだろう。

母を何度も心配させた“ネガティブ葉子”はもういない。今はただ、大好きな読書とダンスを楽しむ平穏な日々が葉子ちゃんを包んでいる。

 

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。 
宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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