イエレン新FRB議長を待つ、「神業」の試練 世界中で、じわりと金利が上昇

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12月6日、米国の量的緩和縮小観測を背景に、世界でじわりと金利が上昇してきた。写真は10月、都内で撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 6日 ロイター] -米国の量的緩和縮小観測を背景に、世界でじわりと金利が上昇してきた。米経済が改善しており、自然な姿ともいえるが、急激な金利上昇は株価などを圧迫しかねない。かといって無理に低金利を維持すれば、バブルの引き金にもなりうる。

短期的には金利を押さえ景気を下支えする一方、将来的な金利上昇予想を浸透させバブル形成を防ぐという「神業」をイエレン氏は求められることになりそうだ。

テーパリングで金利の水準訂正も

これまで株高・円安のリスクオン相場とはまるで「別世界」のように静かだった円債市場がようやく動き始めている。11月米雇用統計の発表を直前に控え、米国のテーパリング(緩和縮小)観測が強まり、米金利が上昇。JGB(日本国債)にも波及してきたためだ。

米10年債利回りは一時、9月18日以来の高水準となる2.874%に上昇。世界の金利の基準である米金利の上昇は世界に波及し、独10年連邦債利回りは1.86%と10月18日以来の高水準、日本の10年長期金利も一時0.68%と、10月1日以来の高水準となった。

テーパリング観測の背景は米経済の改善であり、多少の金利上昇は許容範囲内ともいえる。足元の金利上昇も「11月米雇用統計を控えたポジション調整に過ぎない」(外資系証券)との見方が多く、市場にそれほど警戒感が強まっているわけではない。日経平均<.N225>も3日ぶりに反発した。

ただ、日米欧とも景気が回復してきたとはいえ、足元の経済は「超」が付くほどの金融緩和に支えられている面も大きい。巨額の債務問題など各国とも同様の課題を抱えている。景気の足腰がまだ弱いなかでの金利上昇は大きなダメージを与えかねない。

5月23日に日経平均が1000円以上の急落を見せた際、日本の10年長期金利が1%に乗せたことも一因と言われた。足元はまだ0.6%台であり、当時とまだかい離があるものの、このまま短期間で急激に上昇すれば影響は小さくない。市場では「実体経済から見て日米の金利水準はまだ相当低い」(国内投信)との見方も多く、米テーパリングをきっかけに日本でも金利の水準訂正が起きる可能性もある。

アストマックス投信投資顧問・証券運用部シニアファンドマネージャーの山田拓也氏は「1年間かけて1%程度上昇するなら影響はほとんどないだろう。ただ急激に上昇する場合は、投資家のリスク許容度を低下させ、株式などエクイティ商品を売却する動きにつながりかなねい」と話す。

「マエストロ」でも不可能だったこと

市場では「世界的に物価上昇が抑制されている状況であり、短期的には急激な金利上昇は起きにくい」(三井住友アセットマネジメント・債券運用グループ・シニアファンドマネージャーの深代潤氏)との見方は多い。欧米はディスインフレに苦しんでおり、日本もようやくデフレ状況からの出口が見えてきた程度だ。

日本株が急落した5月は、日銀が4月4日に決定した「異次元緩和」の波紋が残り、市場のボラティリティが高かったが、今は大量国債購入の効果が浸透し、金利が上がりにくい状態になっている。しばらくは日米欧の緩和政策が低金利環境を維持させるとみられている。

しかしながら、低金利が続くことは良いことばかりではない。将来のバブル形成につながるおそれがあるためだ。

2004年当時、グリーンスパン前FRB(米連邦準備理事会)議長が「謎(Conumdrum)」と呼んだのは、利上げしても長期金利が上昇しない現象だった。それはリーマンショックにつながる住宅バブルを作り上げた。テーパリングを実施した後も、必要以上に低金利が長期間続けば、過剰な投資が再び起きる可能性がある。

最近ではサマーズ元米財務長官のIMFでの講演(11月8日)など世界経済の長期的低迷を懸念する声が増えてきており、「バブル容認論」が台頭してきている。ただ、バブルである限りは、いずれ崩壊し、その影響もきわめて大きい。バブルを形成せずに持続的な経済成長軌道に乗ることが理想であることは言うまでもない。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は、イエレン次期FRB議長候補が、短期的に金利上昇を押さえて景気をサポートしながらも、将来的な金利上昇予想を市場参加者に植え付けることができるかがバブルを防ぐうえで重要と指摘する。「景気が弱い間は緩和路線を続け、民間部門が過熱し始めたと感じたら、即引き締めに移る。そうすればバブルを抑えることができるかもしれない。しかし、そんな神業みたいなことは『マエストロ(巨匠)』と呼ばれたグリーンスパン氏でも不可能だった」と述べている。

(伊賀大記 編集:北松克朗)

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