「反中ワシントンコンセンサス」が猛威振るう アメリカの「中国封じ込め」、日本はどうする?

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米中首脳会談を経て、中国政府は知的財産権侵害を防ぐための関連法の整備を急いでいると報道されている。だが、中国がルールを改正したとしても、問題は解消しないようだ。

過去にも中国は知的財産権の関連法を整備したものの、政府が厳格にこれを執行しているのは一部企業に対してだけだとハーバード大学法科大学院のマーク・ウー教授は指摘する。つまり、問題は中国政府が同関連法をすべての企業に一様に施行せず、中国経済の将来に重要な戦略的産業に関わる大手ハイテク企業などを対象にしていないことだというのだ。仮に中国がアメフトではなくサッカーのルールを採用したとしても、それを自国チームのメンバーすべてに徹底しないというわけだ。

アメリカが中国のルールを認めないのは、中国による知的財産権侵害や強制技術移転などを防ぐことが、アメリカの中長期的な競争力の維持に直結するためである。一方、中国も製造業振興策「中国製造2025」に代表されるように、自国の経済発展にとってハイテク技術の重要性は高いと認識している。現在も中国の輸出は労働集約的産業に依存しており、中国経済の発展には欧米からのハイテク技術の輸入や習得が欠かせない。

「両国はイノベーション戦争で自ら降伏することはない、またはすべきでない。降伏は21世紀を放棄すること」とフィナンシャルタイムズ紙(2018年4月10日付)は記述している。米中貿易摩擦は米中ハイテク冷戦の一端であり、ハイテク冷戦の先に覇権争いがある。

関与政策から封じ込め政策へ

中国との通商問題に対し、バラク・オバマ政権では特に政権末期には貿易救済措置の拡大やWTOを活用した対策が多く見られたものの、抜本的そして中長期的な対策としては、同問題を環太平洋経済連携協定(TPP)で解決することを選択した。つまり、アメリカ主導で高度な貿易投資の枠組みをアジア太平洋地域に構築し、将来的に中国が参加せざるをえないようにすることを狙っていた。まさに関与政策に基づく戦略である。

しかし、2017年1月、トランプ政権は発足からわずか3日後に選挙中の公約であったTPP離脱を発表した。その結果、アメリカはTPPというハイスタンダードな経済圏をアジア太平洋地域で構築することによって中国を市場から締め出し、中国が自発的に不公正貿易慣行を改革することを促す戦略を放棄した。そして、同政権は主に1974年通商法301条などに基づく追加関税によって中国の不公正貿易慣行を取り締まる戦略に切り替えた。

対中強硬策でトランプ政権が重視するのはアメリカに製造拠点を戻すことであり、中国で活動する企業に対しては、国籍が中国企業か欧米企業かを問わない厳しい対策を打ち出している。

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