その後、フェイスブックやツイッター、LINEといった競合が、ユーザー目線に立ったサービスをガンガン打ち出してきたが、ミクシィは抜本的な手を打てない。携帯がガラケーからスマホに移行する中、アプリ等への対応も後手に回った。「業界構造が急速に変化する中で危機感がなかった。社員の大半は指示待ちで、環境変化のスピードについていけなかった」と朝倉は語る。
「悪いのは、あいつ」を変えたい
危機は続く。業績が悪化する中、2012年5月ごろにはミクシィの「身売り」のうわさが飛び交った。デマではあったが、社内に不穏な雰囲気が漂い、動揺が広がった。危機感を感じ、社内調査をしたところ、驚くべきことにこんな結果が出たという。
「調査の結果は、どの部門でも、会社に対する評価や、他部門に対する評価は『5段階評価』のうち、『2程度』と低かった。それに対して、自分の部門に対する評価だけは『4程度』と高かった」。
つまり、全ての組織で、「自分の部門は悪くない。ミクシィ不振の原因は他部門が悪い、経営が悪い」という結果だったのだ。急成長に陰りが見え始めた社内では、プロジェクトの不振の原因を「あいつが悪い」と、社員の誰かのせいにする雰囲気が蔓延していた。
状況を打破すべく、朝倉が進めた改革の1つ目が、「ユーザーファースト」への回帰だ。
まず、組織体制は、かつての指示待ち体質から、顧客目線・現場主導で動けるように、裁量権と収益の責任を、少人数単位の現場に移すユニット制を敷いた。ユーザーの声を開発が吸い上げる仕組みも整備。自分が作りたいモノを作る「プロダクトアウト」の発想を断ち切った。
改革のもう1つの柱は、「新事業の創出」だ。
それまでのミクシィは、SNS『mixi』を運営する会社だった。しかし、ウェブサービスは、いずれユーザーに飽きられる。ウェブ業界はユーザーが離れ出したらスピードが速い。「将来のためにSNS以外の分野にも取り組む」という当たり前の発想が、ミクシィ社内では事実上、ご法度という雰囲気。朝倉は必死になって新事業の構築を始める。
まずは、社内に「イノベーションセンター」を開設。社内から通年で新事業を受け付け、フィードバックをしながら事業を育てる仕組みだ。すると、半年もたたずに成果が出た。例えば、毎月フォトブックが無料で1冊届くノハナなどの新サービスは、急速に成長している。必ずしも『miixi』と関連のないアプリやゲーム開発も、一気に増えた。
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