かつて成功を手にした僕が苦しむ"男の問題" 「野ブタ。をプロデュース」から14年

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――白岩さんは現在一児の父。妻は働きに出ており、保育園も近場には空きがないため、日中、1歳の子どもの世話は白岩さんが担う。

白岩さん:妻が働くことになったとき、僕が家で子どもの面倒見るよ、と言えたのも『たてがみを〜』を書いたからだと思います。

妙な“美意識”が邪魔をして言葉で伝えられない

それまでも子どもの世話は普通にやってはいたけれど、どこかでやはり育児は母親主体のものだと思い込んでいるところがあった。でも本作を書く過程で、担当の女性編集者とやりとりを重ねたり、妻に意見を求めたりしたのですが、そのときに自分の思い込みを何度も指摘されたんですよ。

なかには“そもそも男性をライオンに例えるのからして自分を美化しすぎではないか”という指摘もあったほどで(笑)。自分の思いを言語化して、思い込みを指摘されて修正して、また言語化する。その繰り返しによって小説が少しずつよくなっていきましたし、僕自身ももっと育児に主体的に関わらなければと思えるようになったんです。

――『たてがみを〜』のなかでは、既婚、バツイチ、独身と立場の異なる3人の男が、妻や元妻、妹や職場の同僚など身近な女性との関わりのなかで、ふたをしていた自分自身の感情や、自分を無自覚に縛っていた“男らしさ”の意識と向き合っていく。

白岩さん:男性の多くは、自分のことを語る言葉を持っていないように思うんです。対して女性は、フェミニズムなんかが顕著ですけど、さまざまな分野でちゃんと自分の思いを語る言葉を見つけ出す努力をしてきました。男性は、妙な美意識が邪魔をして、それをやってこなかったように思うんですよね。社会的にも、四の五の言わずに背中で語ることを美徳とされてきましたから。

男性には言葉がないと言うと、「俺は言葉を持ってる」と怒る人もいると思うんですけど、実は多くの場合、それは独り言であって、他者に届く言葉ではないんじゃないかと感じています。もしくは、届いたとしても相手との関係性を作れない種類の言語を使っていると言えるかもしれません。

相手の存在を、自分と対等だと本当に思ってしゃべっていれば、自然と相手に対する敬意を持つことになると思うのですが、僕自身、その敬意が気がつくと消えてしまっていることがよくあるんですよね。そうなるともう、相手を下に見ているわけですし、関係性なんか築けない。対話って当然、相手ありきのものなので、目の前にいる人の気持ちを無視するような言語を使うと成立しないんですよ。

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