かつて成功を手にした僕が苦しむ"男の問題" 「野ブタ。をプロデュース」から14年

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だけどふと気がつくと、女性に対して以前よりも上から目線で接するようになった自分がいたんです。しかも心のどこかでは、それがよくないことだとも感じている。

だから僕の20代というのは、社会的なステータスを使うことによって自分が得られるメリットがあるぞ、という発見と、そこに乗っかることには何かとても人間としておかしなものを含んでいるぞ、という自分との戦いに終始していましたね。

妻の一言で自分と向き合うことができた

――ところが、そんな自分の後ろめたさと嫌が応にも向き合わされる出来事が起きる。

白岩 玄(しらいわ げん)/1983年、京都府京都市生まれ。2004年「野ブタ。をプロデュース」で第41回文藝賞を受賞しデビュー。同作は第132回芥川賞候補作となり、テレビドラマ化される。ほかの著書に『空に唄う』『愛について』『R30の欲望スイッチ―欲しがらない若者の、本当の欲望』『未婚30』『ヒーロー! 』など(撮影:山内信也)

白岩さん:僕は妻と20代のときに2年ほど付き合っていて、一度別れているんです。その後、3〜4年あいだを空けてから、また「よりを戻そう」という話になって。その際、妻に“あなたの嫌なところが直らない限り、よりを戻さない”と言われたんです。

嫌なところっていうのはまさに20代前半で急に成功して身に付けてしまった横柄さですね。話を聞かなかったりとか、相手の意見をないものにしたりとか、自分の考えを押し付けたりしてしまうところ。元々自覚はあったんですけど、妻にその条件を出されたことで、初めてちゃんと向き合ったんです。

いろいろ考えたら、妻ではない別の人と付き合っているときもずっと同じ自分だったのに気づかされて。後ろめたい気持ちもあるし、いつまでそんな自分でいるんだ、もう逃げるのはやめようと決めたんです。

――同時期、自分を変えなければならないと決意した白岩さんを強力に後押しする、妻からの温かい一言もあった。

白岩さん:自分の嫌なところとは別に、僕は自分の経済力にずっと不安があったんですよ。自営業だから僕の稼ぎは決して安定していません。多い年もあれば少ない年もある。稼ぎって、これは僕が男だからかもしれませんけど、自信に直結するんですよね。少ないとどうしても自信がなくなる。

ある日、その不安をポロッと妻に話すと“あなたの書くものは嫌いじゃないし、書くことを応援したいと思ってる。私も働くのだから、お金に関しては別にそこまで気にしなくていいんじゃない? それに本当に食べられなくなったら、あなたはバイトでもなんでもしてお金を稼ぐだろうし、大丈夫”と言ってくれて。このときにやっと、20代から背負い続けてきた「経済力」という肩の荷を、ちょっとだけ降ろせたような気がしたんです。

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