映画フロントランナーに学ぶ大統領選の変化 「政策から人柄」契機となるスキャンダル描く

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また、愛人と呼ばれたモデルのドナも、当時はメディアの注目を集め、スキャンダルに大いに傷つけられた女性のひとりである。だが、本作でサラ・パクストンが演じたドナはステレオタイプで描かれるような愛人像ではなく、世間の声に傷つき、自分の存在を認めてほしい、自分の声を聞いてほしいと願うひとりの女性として描かれている。

マイアミ・ヘラルド紙がゲイリー・ハート候補者の不倫疑惑をスクープ。大統領予備選は急展開を迎える(写真:配給会社提供) 

実際にこの本作を鑑賞したというドナは「30年前に与えられなかった声がここでは与えられたと思いました。ライトマン監督に感謝したい。わたしのキャラクターを、思いやりと尊厳を持って描いてくれた」と感激していたという。

かつては“英雄色を好む”という言葉があったとおり、政治家や有名人の女性関係は大目に見られてきた時代があった。しかし今の時代なら、あのケネディでさえも、女性スキャンダルで潰されていたのではないだろうか。

時代とともに人々の考え方に変化が生まれる。『タイム』誌は「1960年代に性的タブーが崩壊したことで、性的な話題に関する一般的な議論が受け入れられるようになってきた。それと同時に、女性の地位の変化に伴い、社会は結婚した男性の不倫には寛容ではなくなっている」と世情の変化を指摘する。有能な政治家であったハートでさえも、その認識を捉えることが出来なかったのだ。

政治家の女性スキャンダルに世論は厳しくなっていった

だが、原作者のバイがこの物語を書こうと思ったきっかけとして、「現代はハートの物語が忘れられつつある一方で、毎日のように物事の本質よりもスキャンダルが勝ってしまっているからだと。そしてこの物語がかつてないほどに現実の物語につながっていることに気づいたからだ」と語る。

大統領選には多くの選挙スタッフも携わっている。この映画ではそうした人物たちにもスポットが当たる(写真:配給会社提供) 

ライトマン監督は本作の登場人物の誰にも加担していない。できる限り多面的な視点を通じて、女性問題で失脚した大統領候補の転落劇を静かにあぶり出そうとしている。ライトマン監督は「誰が正しかったのか、誰が間違っていたのか。その結果どういうことになったのか。そうしたことを観客自身が決めるよう、働きかける語り口なんだ」と語る。

もちろんハートのスキャンダルを擁護するつもりは毛頭ないが、スキャンダルを暴き立てる報道のあり方はいかにあるべきか、政治家や有名人は清廉潔白であるべきなのか、そしてその結果、現代がどうなっているのかなど、この映画は、そういったいろいろなことを考えるきっかけとなっている。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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