南北の「鉄道調査」で見過ごされた重要事実 トランプが北朝鮮の制裁緩和に応じた?
まず、南北の鉄道事業が前に動き出したことは、北朝鮮が大きく変わってきたことを意味する。
今回の鉄道事業に関し、北朝鮮は当初から従来では考えられないほどオープンな姿勢をとってきた。4月に行われた南北首脳会談では、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が次のように発言し、話題となった。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が訪朝し、北朝鮮国内を移動することになると思うと「恥ずかしい」「わが国の交通手段(で移動するの)は、正直言って苦痛でしょうから」――。そんな言葉を口にしたのだ。
韓国側の目に触れるのは鉄道だけではない
北朝鮮の最高指導者が、ここまで開けっ広げに自国の欠点を認めるのは前代未聞といっていい。さらに鉄道の共同調査で、北朝鮮は一段とオープンな姿勢を見せ、重要施設の現状を韓国側の目にさらすことに応じた。
実際、共同調査で韓国側の目に触れることになったのは、鉄道だけではない。
駐英北朝鮮大使館で特使を務め、2016年に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏は、自身の回顧録『3階書記室の暗号』の中で、北朝鮮政府が鉄道連結事業の開始に前向きになるとは思えないと、懐疑的な見方を示していた。
回顧録によれば、北朝鮮の東部沿岸には巨大な要塞が築き上げられているという。「仁川(インチョン)上陸作戦」の再来を防ぐためだ。仁川上陸作戦とは、朝鮮戦争でアメリカに率いられた国連軍がソウルに近い仁川に奇襲上陸を仕掛け、それまでの劣勢を一気に覆した出来事である。
太氏は、南北の鉄道連結事業を「戯言」と一蹴する。北朝鮮の東部沿岸を走る東海(トンヘ)線を近代化するには、この軍事施設を移動させなければならなくなるからだ。
ただ、共同調査では東海線でも韓国の車両を試験運行することにした。ということは、沿線の要塞も韓国調査団の目に触れることになる。このように現地で収集される軍事情報は極めて価値が高い。北朝鮮は、まさにこのような情報を韓国側が手にすることを許容しているように見える。