北朝鮮に必死な韓国「文大統領」に漂う哀愁 月光政策がうまくいっているとは言いがたい

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イヴァンカ氏の閉会式出席を受けて、トランプ大統領はそれまで貫いていた北朝鮮への強硬路線を即座に転換。北朝鮮の金委員長と対話する意向があると表明した。

その後の展開は急だった。4月と5月には、韓国と北朝鮮が軍事境界線のある板門店で立て続けに首脳会談を実施。6月にシンガポールで開催された歴史的な米朝首脳会談へとつながっていく。

金委員長との初会談を果たしたトランプ大統領は、米韓の合同軍事演習を中止するとツイート。アメリカの防衛費で同盟国を守るのは予算の無駄遣いだとする従来の理屈を持ち出し、「戦争ゲームをやめて、大金を節約する。互いに誠実な交渉を続けている間はそうする。われわれは交渉しているのだ!」と述べた。

文大統領は敬虔なカトリック教徒

これを受けて、北朝鮮との融和を重視する文大統領の「月光(ムーンシャイン)政策」はアクセル全開となる。8月には北朝鮮の金剛山(クムガンサン)において、朝鮮戦争で生き別れとなった離散家族の再会事業が約3年ぶりに実現。続く9月に文大統領は平壌を訪問し、自らが師と仰ぐ金大中、盧武鉉両元大統領に肩を並べる存在となった。出迎えた金委員長から力強い抱擁を受けるというサプライズもあった。

文大統領は敬虔なカトリック教徒でもある。疲れ知らずと見える文大統領は10月に、バチカン(ローマ法王庁)を訪問。訪朝を招請する金委員長からの伝言をフランシスコ法王に伝え、「ムーンシャイン」のケーキにデコレーションを盛り付けた。

韓国の聯合ニュースによると韓国大統領府の報道官は、フランシスコ法王が「(正式な)招待が届けば行くことはできる」とし、招請を受け入れる意向を示したとしている。だが、法王が近く訪朝する可能性はまずない。

フランシスコ法王は、アジアでほかにもっと重要な懸案を抱えているからだ。北朝鮮の最大の隣国で友好国でもある中国は、ローマ法王庁との力関係を変えようと交渉を進めている最中。中国には中国共産党が司教を任命する政府公認の教会と、ローマ法王庁に忠誠を誓い政府非公認とされた「地下教会」の両方があり、敬虔なカトリック教徒のコミュニティーが現実に存在する。中国はローマ法王庁にとっても重要国であり、法王が訪中する可能性は高い。

また、ローマ法王庁は司教の任命権をめぐって中国共産党に歩み寄ったことに対し、かつて香港で司教職を務めたジョセフ・ゼン枢機卿から強烈な批判を浴びせられてもいる。ゼン枢機卿は「バチカンが中国と取引したせいで、カトリック教徒は苦しむことになる」と語った。

宗教を弾圧してきた中国の独裁政権と交渉することについては、人権活動家も反発している。確かに中国はカトリック教徒にとっては受難に満ちた国だろう。しかし北朝鮮に比べたら、中国の宗教弾圧など足元にも及ばない。北朝鮮では地下教会の信者はごく少数しか存在しないが、それでも拷問され、殉教へと追い込まれてきた。

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