金融緩和に懐疑の目を向ける人たちの危うさ 日本には「需要先取り論」は当てはまらない

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日本では2013年から「黒田日銀」の誕生でデフレが和らぐ以前、つまり1990年代半ばにデフレが始まってから、一時期を除いて「不完全雇用」が続いていたと筆者は考えている。

実際に2018年に失業率の2%台が定着しても、賃金上昇率があまり高まらない状況である。日本の場合は、失業率が一見他国と比較して低いように見える。だが失業率が3%台半ばを上回っていた1996年前後から2015年前後のほとんどの期間は、不完全雇用と位置づけられるだろう。

不完全雇用の状況とは、多くの新卒者などの若年層が就業する機会を得ることが難しい、あるいは希望する待遇の労働環境に身を置くことが難しい、ことを意味する。

むしろ不十分な金融緩和・拡張財政こそが問題だった

希望する就業の機会を長年にわたり失ってきた人々が、日本では長期間にわたり多く存在した。このため、十分だったかどうかはともかく、金融緩和などの政策は、経済成長と労働市場を改善させる方向に作用し、「需要の前借り」の反動はほとんど起きていなかった。

つまり、不完全雇用とデフレが続いていた期間は、副作用はほとんどなく、ほぼ効果しかなかった金融緩和・拡張財政が十分行われなかったことが大きな問題であった。そして、労働市場でスキルを身に付ける機会を逸した若年世代の経済的な損失を、取り戻すためのコストは現時点で極めて大きくなっている。

要するに、金融政策による「需要の前借り」が問題になるのは、完全雇用実現後にインフレ率が高まりすぎて、利上げが行われ経済が減速する局面が訪れる時なのだろう。日本では、2018年に失業率が2%台に低下しており、失業率2%前後と考えられる完全雇用の領域に近づいており、労働市場の状況は2012年以前と比べて格段に改善している。しかしインフレ・賃金の伸びの低さを考えれば、「前借り」の反動を懸念する経済状況には、まだ距離があると筆者は考えている。

また、デフレと不完全雇用がとても長く続いた日本の経験を踏まえ、金融・財政政策は「需要の前借りにすぎない」と位置づけることは適切なのだろうか。

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