カントとエスパーの対決記『視霊者の夢』 大哲学者がスヴェーデンボリを徹底批判したワケ

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スヴェーデンボリが頻繁に訪れたという霊界の話は、かつて丹波哲郎が見たと称していた「大霊界」同様、「見た」と言われても他人には検証のしようがないものであるが、一方で、信頼出来る目撃者も多く客観的に見ても彼が超能力者であるとしか思えないようなエピソードが少なくとも3つある。

千里眼を持つ男

一つは、スヴェーデンボリがスウェーデンのエーテボリで会食をしていたある夜、突如遠く離れたストックホルムで火事が起こったと言い出した事件である(千里眼事件)。刻一刻、彼は火事の現在状況を出席者に伝え、最後には彼の家の三軒手前でようやく火事が消し止められた、と語ったのである。

ストックホルム大火の報は翌々日になってようやくエーテボリにもたらされたが、火事の被害は、火事の夜にスヴェーデンボリがまるでその場で見てきたかのように語った内容と寸分違わぬものだった。

もう一つは、オランダの駐スウェーデン公使銀食器事件である。急死した公使の未亡人のもとに銀細工職人がやって来て、亡夫が注文した非常に高価な銀食器の代金をまだ受け取っていないと責めたてた。几帳面な夫が金を払っていない筈がないと思いながらも、家をいくら探しても領収書が見つからない。

思いつめた未亡人は、スヴェーデンボリに霊界にいる夫に聞いてほしいと依頼した。果たして数日後、パーティーを開催中の未亡人宅にやって来たスヴェーデンボリは、霊界で夫に確認したところ、既に代金は支払っており、領収書は2階の戸棚にあるという話だったと伝える。未亡人は既にその戸棚は探したと抗弁するが、スヴェーデンボリは、公使しか知らなかった戸棚の秘密扉の存在を告げる。

出席者達と2階にあがった未亡人が戸棚をあらためると、スヴェーデンボリの言葉通り秘密扉があり、開けてみると中にはオランダの機密書類と共に銀食器代金支払いの領収書があったのである。

最後のエピソードの当事者は、なんとスウェーデン女王である。スウェーデン女王が、物故したある将軍に彼が秘密にしていたあることをどうしても問いただしたいと思い、それをスヴェーデンボリに依頼をした。霊界でその将軍に会ったスヴェーデンボリは早速女王にその内容を伝えた。その内容は詳細・正確であっただけでなく、明らかに女王と将軍の二人しか知らないはずのものであったため、女王は深く感嘆したというものである。

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鈴木大拙訳!のスヴェーデンボリ(スエデンボルグ)『天界と地獄』」

当時まだドイツ小都市の一学徒に過ぎなかったカントはこうしたスヴェーデンボリの視霊と奇跡に強烈に興味をかきたてられ、色々な手段を尽くしてスヴェーデンボリに関する調査を始める。上記の奇跡に実際その場に立ち会った人に間接インタヴューも行い、スウェーデンに旅行する信頼できる人物にスヴェーデンボリに会ってもらったり、遂にはスヴェーデンボリに会う人に手紙を託したほどである。

さて肝心の『視霊者の夢』であるが、前半は一応ユーモアを織り交ぜてはいるものの、いかにもカントらしい、哲学書を読み慣れない人間には極めて読みにくい硬質な概論的文章が延々と続く。

後半戦になってようやくスヴェーデンボリが登場。上記を含むスヴェーデンボリの有名なエピソードと、更にはスヴェーデンボリが著書にて開陳した「霊界」の様子を、前半より更に軽妙に(間違ってもらっては困るが、それでも所詮「カントにしては軽妙に」に過ぎない!!)記し、盛んにスヴェーデンボリを揶揄している。

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