基本的に恋愛結婚は、それより「値打ちが落ちる」結婚とされた時代が長く続きました。
「男女、7歳にして席を同じゅうせず」の古い中国のマナーは別格にしても、「授かり婚」など当時はとても恥ずかしいことでした。以上のように男女関係や結婚観の世相も、時代によって随分変わっていることは確かです。
かく言う筆者もごく最近まで、婚姻届けを出さずに男女が同居することや妊娠することに、かなり抵抗を持っていました。公私共に責任を明確にせずに男女が深い関係になるのは、誠実な人間のすることではないと思っていました。
しきたりの有無は結婚生活の質に何の保証も与えない
ところで70年も生きていますと、私がいくら古い人間だとしても、その矛盾に嫌でも気づかされます。「しきたりどおり」に行われ、親に祝福された結婚で愛情が育たなかった夫婦の例に、事欠きません。逆に親への報告も婚姻手続きも、全部後回しの結婚で、幸福な家庭を築いた人もゴマンといます。別にどちらのほうが幸せだというわけではないのですが、しきたりの有無が結婚生活の質に何の保証も与えない事例を数多く見てきました。
当相談室にしばしば登場する、大手会社の重役だった友人の話です。ある日、私たちが会食中に、一人息子さんから電話が入りました。
「もしもしお父さん、結婚することになりました。いついつの何時に、どこどこの式場へ来てください」
友人はちょっと驚いていましたが、「わかりました。ところでお父さんは何をすればいい?」と聞きました。すると、息子は「体ひとつで来てください」と答え、父親は「わかりました」と応じました。
電話を切った後、彼はすぐに思い出したように息子さんに電話をかけ直しました。「ところで相手のお嬢さんの名前だけでも教えてくれ。初対面のお嫁さんに結婚式場で、『ところでお名前は何ですか?』と聞くのも変だし、式場を間違えないためにも」。
息子が社会人になったのを機に離れて暮らしていましたが、息子さんとも仲が良く、私たちにもよくご馳走してくれる、金離れのよい人でした。
その彼が一人息子の結婚報告で息子に聞いたのは、相手の名前だけでした。その場に居合わせた私たちメンバーがどれだけ爆笑し、感心したことか、想像してください。
「だって結婚するのは息子で、私ではないからね」と言っていました。今も私たちは、その仲が良い父と息子夫婦と会食する仲です。
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