1日5万本売るパン屋が一等地出店しない理由 香川の製麺所をめざした「乃が美」の発想

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この数年、ありがたいやら驚くやらの連続だった。その驚きは、新しい店を出すごとにますます大きくなった。1店成功するたびに、「次もいけるんちゃう?」と思う。トライすると、「めっちゃいけるやん!」という結果が出る。それがまた次の「いけるんちゃう?」になり、「いけるやん!」になり……。2018年、乃が美は全国45道府県に104店舗を構え、1日に5万本以上のパンを売る会社になっていた。

阪上 雄司(さかがみ ゆうじ)/乃が美 代表。1968年、兵庫県生まれ。高校卒業後、(株)ダイエー入社。飲食部門の責任者を務め、26歳で飲食店を開業。20年間にわたりさまざまな飲食店を経営。2007年、大阪プロレス代表取締役会長に就任。老人ホームの慰問をしている際に「子供からお年寄りまで、みんなが美味しく食べられる食パンを作りたい」と思いつく。パンの素人でありながら2年以上の月日をかけ、2013年、高級「生」食パン専門店「乃が美」を創業。5年で全国展開し、1日5万本売れるパン屋に育て上げる

45「道府県」。怪訝に思われた方もいるだろう。そう、乃が美は全国制覇の最後の最後まで、東京に出店しなかった。全国ほとんどのエリアで手に入る「乃が美」の「生」食パンは、「東京だけが知らないパン」としても知られていたのだ。

「なんでそんなイケズ(関西弁で「意地悪」の意)すんねん」といわれれば、地元で成功して東京に打って出て、たちまち失敗するという「飲食店のよくあるパターン」にはまりたくなかったからだ。

「お年寄りから子供まで、みんなが食べられて、笑顔になれる食パン」を作ろうと心に決めたとき、僕はパンについてまったくの素人だった。

それまでの20年間は、商売人としての試行錯誤の道のりでもあった。20代から、居酒屋や焼き肉バイキング、携帯電話販売までさまざまな商売を手掛けてきた。2007年からは、大阪プロレスの会長も務めている。

さまざまな商売でさまざまな壁にぶつかった。壁を一つひとつ乗り越えたあとで、まったく新しい食パンの構想を思いついた僕は、20年間で積み重ねてきた「常識」をすべて捨てることにした。

うまくいかない言い訳から逃れるためには

世の中で、商売で、当たり前だとされていることをすべて捨てないと、僕の頭の中にあるパンも、パン屋も、作れないと思ったからだ。常識を捨てた最たる例が、立地戦略だ。

飲食チェーンを展開していたとき、僕のなかで立地は最重要項目だった。駅から近いか、メインストリート沿いか、そもそもそこは「栄えている街」なのか。

ところがこの立地主義で、さんざん失敗した。ミナミのど真ん中に店を開いて潰してしまった経験もある。大阪プロレスの選手も動員してにぎにぎしくアピールしたのに、1年も経たずに撤退した。何をしてもうまくいかなくなって焦っていた時期の、苦い思い出だ。

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