新幹線開業3年半、金沢の街は何が変わったか 観光・ビジネス絶好調だが、新たな懸念材料も

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地元の期待や不安、懸案がわかりやすく表れているのが、石川県内のシンクタンクが2017年9~10月に実施した県民・企業アンケートの結果だ。それぞれ1000人、1000社を対象に調査し、403人、333社から回答を得ている。

意外にも思われるのが、北陸新幹線に乗ったことのない人が44.2%に上ることだった。この数字自体は、筆者が北海道新幹線沿線などで実施した調査と大差なく、個人的には腹落ち感のある結果ではある。しかし、北陸新幹線の話題性、金沢―富山間など「試し乗り」に好適な区間の存在を考えると、「もう少し多くても」という気がしなくもない。

利用目的には「旅行」「仕事」のほか、「観劇」「孫の世話」といった回答も見受けられ、これも他の新幹線沿線と共通の状況だった。

新幹線開業で変わったこと

新幹線開業で良いと感じた点には、「東京行きが便利に」「まちが活発に」「企業誘致」「外国人観光客が増えた」といった項目が並ぶ。

半面、悪い点としては「ホテルの予約ができない」「ホテルの値段が上がった」「タクシーが足りない」「食材の高騰」「駐車場が混雑」「観光客が優先されている」「並行在来線が不便に」「道路の渋滞」といった点が挙がっている。

なお、これらの苦情や批判に対応する形で、2019年4月の宿泊税導入が決まっている。市の検証会議が公表した報告書で提言していた。東京、大阪、京都に次いで全国4例目となり、収入は街並み保全や無許可・無届出の宿泊施設に対する監視・指導の強化に活用するという。

一方、企業アンケートによると、開業2年目の売り上げが開業前より「伸びた」と回答した企業は、全体の40.8%、金沢市内では49.0%に達した。しかし、金沢市内でも、「変わらない」が24.3%、「減った」が25.2%あった。

「変わらない」「減った」の理由は、「新幹線の影響は関係ない業種のため」のほか、「企業間の競争激化」「北陸全体の景気停滞感」といった項目が上位を占め、当然のことながら、新幹線開業があらゆる業界に有効な万能の特効薬ではない実態を浮き彫りにしている。

北陸新幹線がもたらす懸念材料としては「人材流出による人手不足」「企業進出による競争激化」が目立ち、経済の活況の裏側で、地元企業の環境が厳しさを増している様子もうかがえる。

金沢市の大きなポイントは、地元の検証態勢がしっかりしていることだ。それを生かした、人手不足の域を超えつつある「人口減少社会」への対応、そして2023年春に迫った北陸新幹線の敦賀(福井県)延伸への対策が急がれる。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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