観光需要だけではない。金沢商工会議所によると、新幹線開業から2年目までに、石川県内に出先機関を新設した県外企業は約70社に上る。このうち撤退したのは1社といい、消費流出や出先機関の統廃合など「ストロー現象」を懸念していた地元を安堵させた。
2018年1~3月期のオフィス空室率は5.7%と初めて5%台まで下がった。3~6月期は17期ぶりに上昇、6.7%となったが、金沢商工会議所によれば依然、オフィス需要は非常に旺盛だという。もっとも、商業ビルには空室が目立ち、市中心部でも空き店舗は少なくない。
暮らしへの恩恵も大きい。金沢市を中心に新幹線通勤・通学が定着しつつあり、北日本新聞記事によると、2017年度の定期券利用者は金沢―富山間が730人、金沢―高岡間が160人に上る。
いずれも地元自治体が人口流出を防ごうと支給している補助金が後押ししているというが、沿線での聞き取りによれば、これまで金沢市への鉄道通勤・通学が選択肢とならなかった富山県黒部市や新潟県糸魚川市から通っている人も増えているという。
さらに、今回の調査で多くの人が強調したのが、新幹線の「雪への強さ」だった。昨冬、北陸地方は何度となく豪雪の被害を受け、食料品や生活必需品が品薄になる事態にも見舞われた。そんな中、北陸新幹線は運休がわずか2本と抜群の安定性を誇った。豪雪期、他の交通機関から新幹線に乗り換え、そのまま利用が定着した人も目立つという。
仙台に比べて“遅すぎた”開業
これほど大きな変化が生じた理由を突き詰めると、2つのポイントが見えてくる。
まず、金沢市の都市規模と機能、拠点性、さらに日本の中の地理的環境を考えると、金沢開業は、たとえば仙台開業に比べて“遅すぎた”開業という一面がある。どちらも東京からの直線距離は約300km。国や企業の出先が集積し、行政・経済・産業・文化の一大拠点だ。仙台市は1982年に新幹線が開業し、東京からの所要時間が4時間から約2時間半に短縮された。現在は1時間半だ。
一方、金沢開業はそれから33年遅れとなった。東京―金沢間の所要時間は、乗り換え1回を含め4時間弱から、乗り換えなしの約2時間半にまで短縮された。そして、時間距離の短縮を待ち望んでいた企業や人が、開業を契機に、一気にさまざまな行動を起こし、その流れが止まらない、という様相を呈している。
もう1つは、長すぎる懐胎期間に、地元がさまざまな施策を着実に進めていたことだ。たとえば新幹線開業時、駅前で工事が続いている街は珍しくないが、金沢市はちょうど10年前、2005年に鼓門と「もてなしドーム」を完成させていた。
他の整備新幹線地域に比べると、駅周辺の整備にとどまらず、観光振興、まちづくりなどのソフト・ハードなど、開業時点で準備が整っていた事物が多いように見える。
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