「満を持しての開業だった。そして、金沢らしさ、金沢の本当の良さを、国内外の多くの人に評価された。自分たちでも、ポテンシャルの本当の高さを知らなかった」と金沢商工会議所地域振興グループの柿英明課長。
一方、金沢市誘客推進室の小原素室長は「金沢は観光都市ではなく歴史都市。文化的政策が市民生活に根付いており、景観まちづくり条例などで金沢らしさを守る意識も市民に定着している」と強調する。
「金沢らしさ」といえば、筆者が2013年12月に金沢市で調査した際、当時の担当者は「短期型ではなく、1週間から1カ月かけて街をじっくり味わってもらえる、滞在型の観光を強化したい」と抱負を語っていた。
しかし、ふたを開けてみれば開業後、ホテルが不足するとともに料金が高騰し「金沢は最も日帰りが似つかわしくない街。狙っていた方向と逆に向かっていないか」と県外から気にかける声にも接した。
その後の展開はどうか。小原室長に尋ねたところ、「滞在型観光には、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで三つ星認定を受けた観光地や世界遺産、国宝がある北陸・飛騨・信州が県境を越えて連携し、広域で取り組んでいる」と答えが返ってきて、少し安堵した。
「ホテル不足」の次は「建設ラッシュ」
金沢市の特色の1つは、市が経済人や学識経験者を集めて「北陸新幹線開業による影響検証会議」を組織し、地域として情報や影響を精査・評価したことだ。整備新幹線の開業地域では、上越市が開業後、住民を対象に大規模アンケートを実施しているが、市がこのような会議を設けて検証を試みた事例は、筆者の知る限り非常にまれだ。他地域に比べると地元の検証は全体的に厚みがあり、内容も多岐にわたる。
興味深いのは、検証会議が観光一辺倒ではなく、世界に通用する「ものづくり」の海外需要拡大が、経済活性化の一因だと分析している点だ。北陸新幹線は製造拠点の北陸移転も後押しした。北陸銀行系のシンクタンク・北陸経済研究所(富山市)の藤沢和弘・調査研究部担当部長は「いざという時、技術者が遠方から製造現場に駆けつけるには新幹線が不可欠」と、新幹線開業の意義を解説する。
市のまとめでは2018年6月末現在、市内の客室は約9800室、定員は約1万8000人。これが2020年には1万2000室まで増える見込みだという。
また、日本政策投資銀行北陸支店のレポートによると、厚生労働省の2016年度末現在の調査では、金沢市のホテルの客室数は8750室、国内12位だが、このまま増えれば10位の広島市、11位の名古屋市を抜いて、9位に浮上する可能性がある。
同レポートは「開業まで様子見だったのが、一斉に動き出した」と指摘したが、一方で、年間宿泊客が大きく伸びた場合でも稼働率が減少するとの予測を示し、過大投資となる懸念をにじませている。
実際、この1、2年ほど、金沢駅前や香林坊地区を歩いていると、あちこちにクレーン車が並ぶ光景が目に入り、その多くがホテルの建設現場だった。
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