「ウチの子はダメ」と嘆く親ができてない基本 他人と向き合ったところで何も解決しない

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松岡:言葉がコミュニケーションの基本ですからね。僕もここ最近は、専門の先生にお願いしてジュニアのテニス合宿に来ていただいて、言葉の指導を行っています。たとえば「自分は何々をしたい。なぜならこう思っているから」と言いたいことをきちんとした文章で表現する訓練です。

松岡修造氏

石井:テニスの教室で言葉の指導をするのですか?

松岡:自分の気持ちがきちんと相手に伝わるように言葉で表現する練習をすることで、テニスもうまくなるはずだと思ったからです。たとえば試合でボールが飛んできたときに頭の中で考えることは、「今、相手がこの位置にいるから、私はこの場でこのようにボールを打ち返します」と、文章を組み立てることとまったく同じなんですよ。

テニスは考えてプレーしなければいけないスポーツですから「ボールが来た。打った」ではダメなんです。戦略的にプレーするのであれば、的確な言葉で表現することが必要です。

石井:それはテニスに限らず、日常のさまざまなことに当てはまるのではないでしょうか。やはり小さいうちからきちんとものを考え、表現する練習を積むことが大切です。ただ、幼いうちは自分でできないので、親の手助けが必要になります。

親は情報をかき集めるより、「勘」を磨け!

松岡:親としては、子どもに早く自立してほしい、自分自身の意思で行動できるようになってほしい、と思います。でも一方で、失敗させたくないという思いも強いんですよね。

だから、人と比較したり、いろいろな情報に振り回されたりして、本質を見失ってしまうことも多いように思います。

石井:おっしゃるとおりですね。あちこちから情報をかき集めて、どうしようと悩むお母さんも多いです。でも、人の話を聞いたところで、それがすべて自分の子どもに当てはまるわけではないので。子育てをするうえでは、親はまず「勘」を磨いたほうがいいとアドバイスしています。

松岡:「勘」ですか。

石井:ふだんから「今日は元気だな」とか、「具合が悪いのかな」とか、「いつもと何か違うな」と子どもの様子をよく観察することで「勘」が磨かれ、わが子には何が必要か、いざというときにどうしたらいいかが見えてくると思います。

『弱さをさらけだす勇気』(講談社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

松岡:なるほど、「勘」を磨くことは大切ですね。ただ、子どもの側に立たず、自分の思いだけで突き進むと、ついまわりに目が行きがちになり、人と比較してしまったりしますよね。ジュニアを指導していても、「あの子はできたのに、なぜうちの子はできないのか」とおっしゃる親御さんが実に多いです。

石井:他人と向き合ったところで何も解決しません。そこはもう自分の子と向き合うしかないんです。とにかくわが子をしっかりと見るように親御さんにはお願いしています。

そして、お母さんがお手本になることですね。子どもができないところは「こうやるのよ」と見本を示して、いっしょにやり直してみる。それを続けることでできるようになるはずです。

松岡:「あっ、本気になってくれたな」「正しい方向に進んでいるな」と思えるように、地道に努力を重ねる、ということですね。子どもにとっての正しい道筋をつけるのが、親にとっていちばんの役割でしょうね。

石井 美恵子 つくし会幼児進学教室代表

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いしい みえこ / Mieko Ishii

田園調布で幼児教育の教室を26年間運営(1992年開講)。最難関といわれる慶應義塾幼稚舎、早稲田、学習院、聖心、青山学院など毎年合格者を出しており、その志望校合格率は98%という驚異的な数字を残す。1クラス6名という少人数制にもかかわらず、毎年の実績から応募者が殺到するため、ホームページも公開せず“募集しない塾”として受験関係者に有名となる。26年間、自宅の一室を使い、自分一人で教え続け、塾生の食事の準備、自宅のお風呂の解放など、塾生にとって家庭のような居心地のよさから「ママ先生」と呼ばれ慕われている。

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松岡 修造 元プロテニスプレーヤー、スポーツキャスター

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まつおか しゅうぞう / Shuzo Matsuoka

1967年東京都出身。10歳から本格的にテニスを始め、慶應義塾高等学校2年生の時にテニスの名門校柳川高等学校に編入。その後単身渡米し、86年にプロに転向。95年ウィンブルドンで、日本人男子としては62年ぶりのベスト8に進出するなど、数々の記録を打ち立ててきた。現在はテニス界発展のため、『修造チャレンジ』などを通じてジュニア強化と育成に尽力している。また、テレビ朝日『報道ステーション』『応援宣言』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などメディアでも幅広く活躍中。著書に『弱さをさらけ出す勇気』など

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