トヨタが定額乗り換えサービスを始める事情 電動化と自動運転が従来の販売モデルを崩す
自動車産業にはデンソーやブリヂストン、アイシン精機のように時価総額では完成車メーカーに匹敵する企業規模の会社が存在しています。完成車メーカーは現在ではそれらの企業を「協力会社」と呼んでいますが、歴史的には「1次下請け」と呼んでいました。業界構造としてはその下に2次・3次の下請けがあり巨大な自動車産業のピラミッドを構成しています。
ブリヂストンはタイヤ以外に高級自転車でも成功していますが、自動車産業では下請け以上のポジションには参入できていません。その理由はエンジンを持っていないからです。エンジン開発力こそが自動車メーカー最大の優位性なのです。
しかし、今後はすべての自動車メーカーにとってこの優位性が崩れます。電動化に必要なモーターはどこかほかの部品メーカーから買ってくればよいことになります。おそらくその時代、エンジンの代わりに自動車の優位性を左右するコア技術になるのは電池だと予測されています。
電池とAIというコア技術の開発競争
つまり全固体電池のような新しいタイプのEV用電池の開発競争に勝った企業が自動車業界で最も高い収益性を上げることになると予測されているのですが、それがトヨタのような大手自動車メーカーになるのか、テスラのような新興ベンチャー企業になるのか、それともパナソニックのような電機専業メーカーになるのか、まだその行方は予想できません。
もうひとつ2020年代の自動車には別のコア技術があります。それがAI(人工知能)です。自動車運転用の人工知能は開発競争が進んでいますが、こちらもトヨタが勝つのか、グーグルが勝つのか、ウーバーが勝つのか、その争いは混迷を極めています。
もしこの電池とAIというコア技術の開発競争にトヨタ、ルノー、フォルクスワーゲンといった完成車メーカーが敗れたとしたら? そうなった日には自動車業界の構造は根底から覆ります。仮に電池はテスラ、AIはグーグルのようにどちらのコア技術もシリコンバレーに拠点をおくIT企業や新興企業に押さえられてしまったとしたら、自動車業界はかつてのパソコン業界のように激変してしまうかもしれません。
1980年代まではコンピュータの世界はIBMがすべての頂点に立ち、IBMでなければ高収益は上げられないという状況が続いていました。しかしパソコンの時代に入り、コア技術がマイクロソフトのOSとインテルのCPUへと移行し、それらの部品を買ってくれば誰でもパソコンを製造販売できるという状況になった結果、IBMですらパソコン販売では儲からないという状況に陥りました。
それと同じで、テスラの電池とグーグルのAIを購入すればどんな企業でも自動車を販売できる時代がやってくるかもしれない。そんな時代が到来します。もちろん、「いやいや、そんな自動車なんて怖くて乗れないよ!」という声もあります。衝突安全技術は、自動車メーカーの優位性ではありますが、完全自動運転の時代になって、どれだけ事故を回避できる技術が高まるかがポイントにはなるでしょう。
さて、ここまでの説明で今回のトヨタが打ち出した定額制(サブスクリプション)サービスの戦略的な意味がわかってきます。
トヨタの豊田章男社長は今年1月、「トヨタを車を造る会社からモビリティーサービスを提供する会社に変える」と宣言しました。つまり車を造る、それを売りきって儲けるだけというビジネスモデルが今後、事実上、終焉することを見据えているのです。
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