「できません」と云うな オムロン創業者 立石一真 湯谷昇羊著 ~ただ事でない感動が伝わるビジネス評伝
ビジネスには感動があるということがよく伝わってくる評伝だ。あるいは困難を乗り越えていくにあたって、若い社員を信頼して任せることがどれほど大切かもあらためて理解できる。
「五十歳を過ぎて事を成した人は伊能忠敬と立石一真だけだ」と大前研一が言っていると本書にある。オムロンの創業者・立石一真の仕事ぶりは本当にただ事ではないのである。50歳を過ぎてから、90歳までの40年間に従業員を100倍、売上高を1000倍にしたのだ。
開発への意欲がすさまじいのである。レストランの自動券売機。紙幣・硬貨の両替機。交通量によって最適なゴーストップを出す信号。銀行のCDやATM。切符の自動販売機などの開発から、自動改札システム……とオムロンの技術は私たちの日常生活になくてはならぬものばかりである。
すさまじいというのはその開発のプロセスだ。例えば国鉄(現JR)から自動券売機の開発について相談されたとき、「ああそれなら立石にあるから見においで下さい」と返事をして、その日から開発に入って、3日後の見学の日までに実際に造ったというのである。「できません」とはいわない。
死にものぐるいで、最短時間でつくってしまう。だから本書には、会社での徹夜や連日の寝泊まりのエピソードがたくさんある。もちろん健康管理のあり方としてはいかがかとも思えるのだが、技術者たちはそれを喜んでやっていた。達成感があったからだ。
主人公の人生訓は「最もよく人を幸福にする人が最もよく幸福になる」だった。障害を持った人たちによる工場をつくり、黒字にし、彼らが給料から税金を払うことができた喜びを伝えるエピソードがあるが、実に説得的なのである。
ゆたに・しょうよう
経済ジャーナリスト。1952年生まれ。法政大学卒業。ダイヤモンド社入社、『週刊ダイヤモンド』副編集長、編集長を経て、同社営業局長兼論説委員、同取締役を歴任。2008年8年同社退社。
ダイヤモンド社 1890円 323ページ
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