ソフトバンク孫社長とサウジ、「蜜月」の行方 記者殺害事件後初の公の場で何を語ったか

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孫氏が「ファミリー」と呼ぶ主要出資先の1つで、SBGが筆頭株主でもある米ライドシェア大手のウーバ-・テクノロジーズのダラ・コスロシャヒCEOも事件への懸念を示した上で、早々に欠席を表明している。

会議に関して孫氏が事前に何も語らず、態度も明かさないままサウジを訪れたのは、より丁寧なプロセスとして直接欠席を伝えるためなのか、ギリギリまで出欠の判断に迷ったかのどちらかといえる。

孫氏は既存のファンドの足元での影響について、「現時点ではわれわれの方に、(出資先企業がサウジのマネーを嫌って)SVFのお金は受け取りたくないという話はあまり来ていない。若干の影響はあろうかと思うがきちんと対応し、説明していきたい」と述べた。

ファンドへの自信と裏腹にくすぶる火種

SVFは、大きな利益を稼いでいることに加えて、グループの戦略上でも非常に重要な役目を担っている。孫氏が今年7月に打ち出した「AI群戦略」(世界中のAI<人工知能>の有望な企業に2~4割を出資し、グループで連携していく考え方)のカギになる事業だからだ。SBGにとって、莫大な運用資金を動かすSVFを通じた間接出資は、AI群戦略の軸である。

孫正義社長は「AI群戦略」の重要性を改めて強調した(撮影:今井康一)

SVFの利益水準や、SBGが今後目指していく方向性も踏まえて孫氏は、「SVFは非常に好調で、来年、再来年はさらに上回れるようにしたい」との意気込みも語った。

孫氏の説明からは、サウジの事件がSVFに大きな影響を及ぼす可能性は低いようにも聞こえる。一方で、世界中の名だたる企業がいち早くサウジ投資会議の欠席を表明したり、非難のステートメントを出したりした事実は、無視はできない。

渦中のサウジ政府と親密に見えるリスクがあると考えたのだと推測すれば、SBGの今後に火種がないとは言い切れない。会見の途中では、ジョークも交えながら笑みも見せた孫氏だが、最後は、「誠意を持ってお答えしたつもりです」と述べ、冒頭と同じような神妙な面持ちをつくって締めくくった。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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