「ニュー・シネマ・パラダイス」―旋律の秘密 歌の国イタリアの巨匠、エンニオ・モリコーネ

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2016年2月、『ヘイトフル・エイト』でアカデミー賞を受賞したモリコーネ(左)、プレゼンテーターはクインシー・ジョーンズ(写真:The Grosby Group/アフロ)

なぜ、モリコーネの音楽はかくも胸にしみるのでしょうか。

答えは容易に見つかりません。創造の瞬間の神秘と感動の本質に直結する問いだからです。でも、1つ言えることは、モリコーネの音楽には、明快な特徴があります。

美しい旋律とそれを生かす前衛的な語法

モリコーネの真骨頂は、歌の国イタリアの正統な伝統を引き継ぐ美しく豊かな旋律です。天から降りて来るインスピレーションのなせる業かもしれない、と思わせるほどです。そして、モリコーネ節としか言えない個性があります。

決して策を弄することをせず、ごくごく自然にシンプルに旋律が羽ばたくのです。しかし、それだけでは、砂糖菓子のように甘いだけになりかねません。

モリコーネの音楽が屹立しているのは、旋律を生かす前衛的語法を持ち合わせているからです。父親から受け継いだジャズの精神と聖チェチーリア音楽院で学んだ現代音楽の理論がそのバックボーンです。意表を突く展開と構成、刺激に満ちた和音と編曲です。

美しき旋律と前衛的語法の絶妙のバランスが、モリコーネを唯一無二の作曲家にしています。

蘊蓄(うんちく)はさて置き、『ニュー・シネマ・パラダイス』オリジナル・サウンドトラック盤に身を委ねてみましょう。収録されている16曲は映画から独立した組曲としても味わえます。ここには、情感あふれる旋律と包容力のあるアンサンブルがあります。「思い出」「家事」「愛のテーマ」「廃墟の中で」と流れる部分には、人生の機微、悲哀、希望が音楽で描かれているようです。

最後に、すばらしい音楽はつねに多くの演奏家たちがカバーします。ヨーヨー・マ、渡辺香津美、パット・メセニー、イツァーク・パールマンの演奏もぜひ聴いてみてください。

聴けば、聴くほどに、心の奥の最も柔らかい急所を直撃するパワーを宿していることに驚きます。モリコーネ音楽。聴き倒すべし。
 

小栗 勘太郎 音楽愛好家

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おぐり かんたろう / Kantaro Oguri

1958年生まれ。東京外国語大学卒。米国滞在7年余。音楽愛好家。ポップ、ロック、ソウル、ジャズ、映画音楽からクラシックまで幅広く聴く。現在、 西日本新聞に「音楽プラスα」、毎日フォーラムに「歴史の中の音楽」を連載中。著書に『音楽ダイアリー SIDE A』『音楽ダイアリー SIDE B』(いずれも西日本新聞社刊)。

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