東大卒43歳が導かれた「ラグビー道」の充実感 東京セブンズラグビースクール・村田祐造氏

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そこで、村田が思いついたアイデアは「タグラグビーを取り入れた体感型の企業研修」だった。タグラグビーはキックやタックルのないラグビーだ。防御側が攻撃側の腰に付けたタグを取ると、そこで攻撃がいったんストップ。身体接触がないため比較的安全で、主に年少者や初心者向けに行われている球技だ。

分析ソフトを購入してもらったトップリーグのチーム関係者にアプローチしたところ、母体企業の人事部などに話を通してくれた。チームの母体には大企業が多いだけに、日本独特の”横並び意識”もプラスに働いて企業研修の顧客のすそ野が徐々に拡大した。

東京セブンズラグビースクールを立ち上げた経緯

「タグラグビーを通じてラグビーの良さを大人だけでなく、子どもたちにも伝えたい」

そんな思いから2014年に立ち上げたのが、「東京セブンズラグビースクール」だ。

セブンス(7人制)ラグビー専門のラグビースクールは珍しい。「セブンス」に目を付けたのは「ランニングラグビーの楽しさを伝えたい」との思いがあるからだ。15人制のラグビーと異なりスペースが広いだけに、ディフェンスのギャップなどを見つけて相手を抜き去るなどランニング面での高いスキルが求められる。しかも、「セブンス」は五輪の正式種目のひとつ。他のスクールとの差別化にも有効だ。

プレーよりも重きを置くのは人間教育だ。練習開始前には子どもたちに「7つのルール」を唱えてもらう。

「『感謝』、“ありがとう”を伝えよう」「『品位』、勝っても自慢しない、負けても怒らない、“強くて優しい人”になろう」……。

前出の友人が言う。「家庭でも“7つのルール”を実践するようになった。ゲームで勝っても天狗にならず、“ドンマイ”と言ってくれる」。

コーチには後輩の東大ラグビー部の現役学生を採用。そこにはコーチングを通じて日本の社会を担うエリートを育てようとの狙いがある。

「彼らは優秀だが、何をすれば社会に恩返しできるか、といった感覚に欠けている面があった」

現役部員のコーチは子どもたちに自ら考えることの重要さを説く。同時に、指導を通じて“教えるという行為が実は学ぶこと”だと理解するようになる。たとえば、「集合!」と言っても子どもたちにはわからない。でも、「みんな集まれ!」といえば通じることに気づく、といった具合だ。

村田にはニュージーランド滞在時に忘れられない思い出がある。

オークランドの公園でタッチフット(注:コンタクトプレーのないラグビーの一種)に興じていた市民に「Can I join you(入ってもいい)?」と声を掛けて仲間に加えてもらった。そのゲームでは大活躍。

「お前は日本のジョナ・ロムー(注:オールブラックス代表で、国民的英雄ともいえる存在)だと称えてくれた」

ラグビーはいいなあと心底から思った瞬間だった。

ラグビーと出会ってからもうすぐ30年。村田の表情には好きなことを仕事にしている充実感が漂う。

(文中敬称略)

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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